MOMO5号機 打ち上げ延期の背景

インターステラテクノロジズ(IST)は1月2日、北海道・大樹町にて記者会見を開催し、観測ロケット「MOMO5号機」の打ち上げ延期を発表した。前日に発生した不具合の原因究明と対策に時間を要するため、予備期間として設定していた3日までの打ち上げが困難になった。MOMO初の冬期打ち上げは一旦断念し、仕切り直す。

  • MOMO5号機

    射点に立つMOMOロケット5号機 (C)IST

MOMO5号機は当初、12月29日の打ち上げを目指していたが、機体に不具合が発生したため、同日の打ち上げを延期。30日と31日は天候が打ち上げ条件を満たさず、打ち上げ日時を元旦に再設定したものの、この準備作業中、新たに機体に搭載された電子機器に問題が発生、打ち上げを再び延期していた。

MOMOはこれまで、4機とも春~夏の暖かい時期に打ち上げていた。しかし、今後の量産化を見据えると、通年打ち上げられる体制の構築が不可欠で、5号機の大きな目的の1つには、冬期打ち上げの実証があった。新たな打ち上げ時期は未定なものの、関係各所との調整には時間が必要なため、今回の延期で、これはやや難しくなった。

3月まではZEROのエンジン開発に注力

同社は元々、年末年始にMOMO5号機を打ち上げてから、1月から3月までは、超小型衛星用ロケット「ZERO」のエンジン開発に注力する計画だった。大きな市場が期待できるZEROの開発を遅らせたくない事情もあり、同社の稲川貴大・代表取締役社長は、「3月まではZEROに力を入れつつ、次の打ち上げタイミングを考えていきたい」と見通しを述べた。

  • 稲川貴大

    インターステラテクノロジズの稲川貴大・代表取締役社長 (同社のYouTube中継より)

MOMO5号機に何が起こったのか?

今回、元旦に発生したのは、機体内部の通信に利用しているCANバスの不具合だった。このバスを経由して、計算機はセンサーの計測データを取得し、バルブの開閉を制御している。まさにロケットの"神経"といえる。CANは主に車載向けで使われているネットワークだが、部品が入手しやすく、低コストで信頼性も高いことから、MOMOで採用した。

MOMOでは、CANバスを2系統搭載している。1つは飛行制御用、もう1つは計測データ用で、今回問題が発生したのは飛行制御用のCANだった。打ち上げの2時間前、液体酸素の充填を開始したタイミングで、この不具合が発生。たまに通信できないときがあるなど、動作が不安定になっていたという。

完全に通信できなくなるようなトラブルではなかったものの、問題が起きたのはフライトの成否に直結する重要な系統であったため、放置はできない。同日中の打ち上げを諦め、原因の究明を進めたが、その後の検証ではほとんど現象が再現せず、不具合発生場所の特定に難航。3日までに対策を完了することが難しくなり、延期を決めた。

CANバスでのトラブルは、過去の号機のリハーサルでも起きたことがあったという。しかしそのときに原因となったケーブルなどは、検証の結果、健全であることがすでに確認されており、今回とは現象が違う。また5号機では、点火の直前まで模擬するフルドレスリハーサルも行っていたが、そのときはこの問題は起きていなかった。

可能性として考えられるのは、早朝で気温がかなり低かったことだ。一般論として、低温は電気的・機械的に、様々な問題の原因となり得る。実際に、初日(12月29日)に発生したトラブルの1つであるヘリウムガスの圧力上昇は、想定以上に気温が低くなったことが原因だと推測されている。

ただ、今回のCANバスの問題については、低温が原因とする根拠はまだ見つかっていない。問題発生時の温度環境を模擬するため、ドライアイスを使って試験を行ったものの、同じ現象はほとんど発生しなかったという。低温が原因かどうか現時点ではなんともいえず、現象の解明にはもう少し時間が必要かもしれない。

稲川社長は、「南十勝の冬は、風が弱く、晴天率も高い。厳しいイメージを持たれる場合が多いが、打ち上げには非常に適している」と、可能性の高さに期待する。5号機の打ち上げ自体は春以降になる可能性もあるが、「冬期の打ち上げはどこかのタイミングでしっかり狙っていきたい」とした。