宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月31日、現在開発中の「新型宇宙ステーション補給機」(HTV-X)に関する記者説明会を開催し、概要や開発状況について報告した。HTV-Xは、いま運用中の宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の後継機。2021年度に、H3ロケットによる打ち上げを予定している。

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    「新型宇宙ステーション補給機」(HTV-X)の完成イメージ (C)JAXA

HTVは、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を目的に開発。2009年に初号機を打ち上げて以降、これまでに8機が運用されているが、その全てのミッションで成功しており、信頼性は非常に高い。HTVは次の9号機が最後になることが決まっており、HTV-Xはそれ以降のISSへの補給ミッションを担う役割がある。

HTV-Xの大きな3つの特徴とは?

両機の打ち上げ時重量はほぼ同じだが(HTVが16.5トン、HTV-Xが16.0トン)、構成は大きく異なる。まず外観で目立つ変更は、太陽電池パドルの追加だ。ボディに貼り付けていたHTVに比べると、発電量が増加。どの季節でも効率的に太陽光を得られるよう、両翼のパドルは水平から30°下向きに固定されている。

モジュール構造の採用は従来通りだが、この構成も大きく変わる。HTVは上から「与圧部」「非与圧部」「電気モジュール」「推進モジュール」という順番だったのに対し、HTV-Xは「曝露カーゴ搭載部」「サービスモジュール」「与圧モジュール」となる。

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    HTV(右)とHTV-X(左)の比較。技術を継承しつつ、形態は大きく変わる (C)JAXA

HTVの非与圧部は、上に乗る与圧部の荷重を支えつつ、大きな開口部がある難しい設計を実現していたが、HTV-Xでは廃止。その代わり、HTV-Xでは一番上に曝露カーゴ搭載部を設ける。与圧部を支える必要が無いため、外壁を不要としており、フェアリングに収まる限り、より大きな装置の搭載も可能になった。

電気/推進モジュールは、サービスモジュールに統合される。HTVのスラスタは機体全体に取り付けられていたが、HTV-Xではサービスモジュールに集約。衛星バスとしての機能を全て持っており、モジュール単体での使用も可能になるという。なお、HTVにあった500Nのメインエンジン×4基は廃止され、120Nの姿勢制御スラスタ×24基のみとなる。

HTV-Xの3つの大きな特徴

JAXAの伊藤徳政プロジェクトマネージャはまず、HTV-Xの3つの大きな特徴を紹介した。

1つめは、輸送能力の強化だ。HTVの搭載量は4トン(正味重量)だったが、HTV-Xは5.82トンと、約1.5倍に増強される。HTV初号機の開発費が約680億円だったのに対し、HTV-X初号機は約350億円と、低コスト化も図られており、ロケット側の低コスト化(H-IIB→H3)と合わせ、輸送コストは大幅に低減される見通しだ。

また、利用者へのサービス面での改良も進められた。従来のレイトアクセスは打ち上げの3日前までだったが、HTV-Xではこれが24時間前まで短縮され、より直前まで荷物を積み込むことが可能になった。そのほか、輸送中に与圧カーゴへ電源供給することも新たに可能になっている。

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    輸送能力が大きく強化されたほか、サービスも改善している (C)JAXA

2つめは、ISSからの離脱後に技術実証のためのプラットフォームとして活用できることだ。従来も技術実証は一部行われていたが、HTV-Xは離脱後の運用可能期間が最長1年半となっており、より長期間の実証が可能。推進剤を多く搭載できるため、ISS軌道より高い高度へ移動して小型衛星を放出すれば、長寿命化も期待できる。

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    技術実証フェーズが長期化。様々な使い方が想定されている (C)JAXA

3つめは、将来ミッションに対応することを想定し、発展性を持たせていることだ。現在、ポストISSの国際宇宙探査プロジェクトとして、米国を中心に月周回有人拠点(Gateway)の建設が検討されている。日本も参画する方針で進んでおり、これにHTV-Xの活用を見込む。

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    Gatewayに接近するHTV-XのイメージCG (C)JAXA