2019年9月30日、第3回目となる「RISC-V day in Tokyo」が開催された。今回は国分寺の日立中央研究所に新築された馬場記念ホールが会場であった。私を含めて多くの出席者にとってはちょっと遠いのであるが、日立が協創の森と名付けた武蔵野の森の中にあり、野川の源流となる泉が湧く思索を行うには良さそうな良い環境である。
今回のRISC-V day in Tokyoも盛況で、350人収容の馬場記念ホールはほぼ満員であった。しかし、各座席にテーブルがあるので、PCや資料を置くことができ、それほど窮屈ではなく、快適であった。
過去2回のRISC-V day in TokyoではRISC-Vの生みの親であるKreste Asanovic教授が来日されたが、RISC-V Foundationの会員も増え、よりビジネスという感じになってきたので、RISC-V Foundationは、今年3月に新しくCalista Redmond氏をCEOに迎えた。そして、Asanovic先生はChairmanとなっている。
Redmond氏はIBMでOpenPOWERやIBM Z Ecosystemを担当した経歴を持ち、メンバーシップ団体の立ち上げ、運営の豊富な経験を持っている。今回のRISC-V day in Tokyoには、Asanovic教授ではなく、CEOのRedmond氏が来日した。
ヘネパタ本と言えば、スタンフォード大の学長も務めたHennessy教授と カリフォルニア大学バークレイ校のPatterson教授の共著のコンピュータアーキテクチャの定番の教科書である。この本はMIPS RISCを例として取り上げて書かれていたが、第5版からはRISC-Vに書き変えられた。つまり、世界中の大学でコンピュータアーキテクチャを学ぶ学生はすでにRISC-Vに馴染んでいるということである。
RISC-V day in Tokyoでは、ヘネパタ本の邦訳の中心になった東京農工大学の中條拓伯 准教授の翻訳の苦労話の発表も行われた。
なお、ヘネパタ本は現在、第6版が出ているが、Hennessy先生とPatterson先生はこれで打ち止めといっており、これ以降、新しい版は出ない。この第6版の邦訳が完成し、一般販売に先駆けてRISC-V day in Tokyoで、50部限定で販売された。翻訳作業の中で色々と間違いなどを見つけて訂正を行ったとのことであり、邦訳版は原本の間違いが訂正されて良くなっている。
次の図の折れ線グラフがRISC-V Foundationのメンバー数の推移を示すグラフで、発足以来、順調にメンバーが増えており、現在では350を超えている。そして、注目すべきは、メンバーの増加のペースが最近速くなっている点である。
次の図は、RISC-V Foundationの日本のメンバーを示すものである。すでに東大のような大学、産総研のような研究機関、日立、デンソー、ソニーなどの大企業とその他の中小の企業が会員になっている。
独立系SIerが聞いた顧客のRISC-Vへの期待
RISC-V day in Tokyoでは1つの発表は15分と短いため、会社の説明に長い時間を使ってしまうと、肝心のRISC-Vの話が短くなってしまう。また、Spec sheetの説明に近いような発表もあり、玉石混交であるが、筆者が面白いと思ったのは富士ソフトの「独立系SIerが聞いたRISC-Vに期待するお客様のリアルな声」という発表である。
富士ソフトは組み込み開発を仕様検討から量産までを受託して実施する体制を整えている。
組み込み開発で今求められているのは、チップの開発費や量産価格を下げたいということで、FPGAもその時どきでベンダーにより性能、価格に差が出てくるので、自由に選べるようにしたい。
低電力、高性能を求めるのはどの用途でも変わらないが、組み込みでは、自社オリジナルの機能を盛り込み差別化を行いたいという要求が強い。
組み込み製品は寿命が長い。10年はざらで、20年、30年と使われる場合もある。しかし、汎用のプロセサは数年で世代が変わり製造中止になった時に互換のものが手に入らない。
とにかく、長期供給が必須であるが、一方、IoT時代は機能の追加や変更が要求されることも多く、サポート、アップデートが欲しい。
その点、RISC-Vはオープンソースのコアの使用でコストを下げられる。また、低消費電力で高性能なアーキテクチャである。そしてオープンソースなので、カスタマイズできる。ユーザが世界中に居るので、バグ修正やアップデートが利用できる。
しかし、オープンソースのプロセサIPコアやソフトウェアの品質保証が必要である。これは自分の責任で行う必要がある。
と言っても、自社でそれを行えるエンジニアを抱えるのは大変であるし、その人達が10年後、20年後に残っているかも問題である。
富士ソフトが受託した開発の場合、社内に相当数のソフトウェアエンジニア、ハードウェアエンジニアを抱えており、10年後に分かる人がまったく居なくなってしまうことは、まず、起こらない。
したがって、長期間のメインテナンスを含めて考えると、多くの会社が富士ソフトのような受託開発会社へ委託すれば、メンテナンスエンジニアを多くの会社でシェアすることになり効率的であると言える。