Beyond Next Venturesとデンソーは9月5日、医師の「判断」 を見える化し、どこでも最善の医療を享受できる世界の実現に貢献することを目的に、デンソーが開発した情報プラットフォーム「OPeLiNK(オペリンク)」の技術を活用して事業展開を図るカーブアウトベンチャー「OPExPARK(オペパーク)」を設立したことを発表した。

オペリンクは、手術室で利用されるさまざまな機器から抽出されたデータを一元管理することで、従来、執刀医が頭の中で組み立てていた手技の判断につながる情報の可視化・共有を可能にするために開発されたプラットフォーム。日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、東京女子医科大学の村垣善浩 教授を中心に5つの大学と11の企業が連携して開発されてきたもので、広島大学病院、信州大学医学部付属病院、東京女子医科大学病院に導入され、臨床研究が進められてきたが2018年度で5ヵ年プロジェクトが終了。その後、事業化に向けた検討が進められていた。

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    AMEDが5ヵ年プロジェクトとして進めていたスマート治療室(SCOT)の実現に向けた取り組みの概要

デンソーではプロジェクト終了後、OPeLiNKの開発を担当したこともあり、事業化の検討を進めていたが、社内で医療分野に適した人材がそれほど多くないことなどの課題から、それまでの研究開発チームのメンバーと技術を切り出して、ベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesをパートナーに、新会社として社外に設立した方が、デンソー社内でゆっくりと育てるよりも社会貢献性が高いとの判断から、同社初のカーブアウトの実施が決定されたという。

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    カーブアウトの活用で早期の事業化を目指し、Beyond Next Venturesをパートナーとして新会社を設立することとなった

Beyond Next Venturesでは、カーブアウトベンチャー支援として、およそ1年半の期間をかけて新会社の立ち上げ準備支援を行ってきたほか、自社の保有する経営人材支援プログラムなどを通じて新会社の社長候補の探索を進め、消化器内科医でもある本田泰教氏の代表取締役社長への就任にこぎつけた。

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    左からBeyond Next Venturesの代表取締役社長を務める伊藤毅氏、OPExPARKの代表取締役社長を務める本田泰教氏、デンソー 社会ソリューション事業推進部 部長の永井立美氏

その本田氏はOPeLiNKに対し、「これがあれば、現在の医療現場の当たり前を変えられると思った」とのことで、そうした想いから社長就任を引き受けたとする。また、「現在の日本は、どこでも最善の医療を受けられるわけではない。どこかで手術が必要となったら、手術を行う執刀医の力量に左右されるところがでてきてしまうため、病院を選ぶ、ということをする人もいる。手技は学びの経験値が左右する部分で、OPExPARKではそこを変えることに挑戦したい」と意気込みを語っている。

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    OPExPARKのミッション。社名の由来は、手術(OPEration)に関する経験(EXPerience)が集う広場(PARK)という想いを造語にしたものとのこと

OPExPARKの事業内容としては、主にOPeLinkのシステムを販売する事業と、OPeLiNKで得られた手術画像を元に作った教材などを提供するコンテンツ配信事業の2つが想定されている。本田氏は「OPeLiNKを通して情報が1つにまとまるだけでも価値があるが、手術中に起こったトラブルの数秒前に映像を戻して、何が起きたかを確認したり、手術後にもし合併症が生じた場合の原因追求などの容易化も可能になり、医療の透明化といったことにも貢献する。コンテンツにしても、手術の際には、常に判断をし続けていかないといけないが、すべての状況において、エビデンスが整っているわけではない。優れた術者というのは、手先が器用とかいう部分もあるが、何かが起きたときに、こうした方がよい、という判断ができる引き出しの多さや、戦略の立て方がしっかりとできる人で、それを学ぶためにさまざまな勉強をしている。OPeLiNKでは、そうして得ていた経験値を網羅することができるようになる。そうしたコンテンツを作っていくことで、より良い手術の実現の支援をしていくことに挑戦したい」と事業を進めていくことで、医師や導入した病院がどのようなメリットを享受できるかについて言及。世界の医療水準を高めることで、医師として目の前の患者を救うという行為から、より多くの患者を救うために社長として活動していくことを強調した。

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    OPExPARKの事業概要。主に2つの事業を中心に行っていく

なお、OPeLiNKは開発段階で「Basic」、「Standard」、「Hyper」と活用できる機能ごとに3種類が想定されていたが、今回、OPExPARKが事業化するのはこのStandardに属する機能の部分。先行してSrandardを導入している信州大学医学部付属病院では、主に脳外科手術を中心に活用されてきたことからそのデータが蓄積していることもあり、事業開始から1~2年ほどは脳外科を中心にコンテンツの提供を図っていく計画だとするが、手術室そのものは脳外科以外も活用するとのことから、そうした横展開によるコンテンツの拡充も将来的には図っていきたいとしていた。

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    OPeLinkは3種類のモデルが用意されており、最初の事業化はStandardからというのは、当初の予定どおりといえる