東京工業大学(東工大)は5月22日、同大が研究開発を進める「アトムハイブリッド」に関する技術セミナーをメディア向けに開催した。同技術を活用すると、例えば、アルミニウムをハロゲンに変えたり、複数の元素を組み合わせて、新しい物質を生み出すことが可能になるかもしれないという。アトムハイブリッドは、ナノ材料全盛の時代を次の次元に導く可能性のある技術といえるものだ。

アトムハイブリッドの土台は超原子。超原子は金属原子数個でクラスターを組み、そのときクラスター全体の価電子が原子1個の価電子のように振る舞うという概念。ただ原子数の制御が困難であるほか、魔法数、安定性、生産性の面で課題がある。これを東工大 山元アトムハイブリッドプロジェクトは、対応するデンドリマーを開発することで安定性を得つつ、複数の元素特性を持つ合金粒子を生成することに成功した。また手法としても確立できたという。

  • 山元公寿

    東京工業大学 科学技術創成研究院の山元公寿 教授(左)と塚本孝政 助教(右)

山元教授はアトムハイブリッドを用いる領域を「サブナノ粒子」と呼んでおり、ナノ粒子と原子の間にあるカテゴリとしている。会見ではサブナノによるモノづくりというワードが何度か出てきたが、聴いてる分には錬金術っぽいイメージであった。スズを別の金属に変えるとすれば、イメージとしては近しいだろう。

  • アトムハイブリッド

    サブナノ粒子のサイズ

実現の鍵を握るのは精密高分子デンドリマーの存在。これまでの手法では3元素が限界であり、また元素同士が相分離しやすく、モノづくりの材料としては難しいものであった。そのため、サブナノ、つまり1nmの領域をターゲットに変更。ここで上記の原子数制御の問題が出てきた結果、選択的に金属イオンを集積できるデンドリマーの開発に至ったという。これにより、原子1個単位での制御に成功した。これを活用することで、例えば燃料電池反応においては、原子19個の白金粒子がもっとも触媒活性し、原子数がひとつ違うだけで性能に差が生じるというメカニズムを見つけることに成功している。

  • アトムハイブリッド

    白金の原子数を1個ずつ変更した場合のグラフ。18個と19個の場合での性能差が顕著だ

  • アトムハイブリッド

    鋳型デンドリマーのスライド。内側のイミンから優先的に取り込む仕様。またスライドでは平面的だが、実際には球体だ

また金属イオンの集積順を任意に決定できる点もポイントである。実験ではガリウム-インジウム-金-ビスマス-スズの合金サブナノ粒子の生成にも成功している。デンドリマーに集積後、化学的に還元することで生成された5元素からなるこの合金サブナノ粒子は、それぞれの元素性質を持ったままであることが確認できたそうだ。なお、合金なのか化合物なのか判断に迷うのだが、どちらともいえる。

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    ガリウム-インジウム-金-ビスマス-スズの合金サブナノ粒子には、非対称コアのデンドリマーを使用。複数のデンドリマーを目的に応じて使い分けていく

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    公開された電子顕微鏡。原子像の直接観察が可能で、サブナノ粒子の元素定量分析に使用されている

2019年時点で、扱える元素は70種類。安定元素から希ガスや毒物を除く実用元素がその数となる。最大8元素を加えると、その配合数の組み合わせは膨大である。将来的に未発見の元素の性質を持つサブナノ粒子が見つかる可能性も考えられており、マテリアルズ・インフォマティクス的なアプローチでシミュレーションを行い、高性能サブナノ粒子の予測を進めていくとのことだ。

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    今後の展望