東京工業大学(東工大)、リコー、産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、60mWという低消費電力かつ15cm3という極小サイズの原子時計の開発に成功したことを明らかにした。

  • 小型原子時計

    今回開発された小型原子時計。内寸は33mm×38mm×9mm (出所:産総研Webサイト)

同成果は、東工大博士後期課程3年生のHaosheng Zhang氏、同大 博士後期課程1年生のHans Herdian氏、 Aravind Tharayil Narayanan氏(元東工大博士研究員)、同大 白根篤史 助教、同大 岡田健一 准教授、リコーの鈴木暢氏(NMEMS技術研究機構)、同 原坂和宏氏(NMEMS)、同 安達一彦氏(NMEMS)、産総研の柳町真也 主任研究員(NMEMS)らによるもの。詳細は米国サンフランシスコで開催された半導体回路の国際会議「ISSCC 2019」にて発表された。

電子技術の発達に伴い、時刻の正確性に対する要求は高まるばかりだが、正確な時を刻むことが可能な原子時計、特に原子にマイクロ波を照射する共振器を持つ従来型の原子時計では、共振器の大きさでサイズが決まるため小型化が難しいという課題があった。

近年、原子と電磁波の共鳴現象の一種である「コヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT)」を用いることで、原子時計のサイズを小型化できることが示されていたが、周波数シンセサイザやレーザーを駆動させるためのドライバ回路などに電力が必要で、原子時計全体では数百mWほど必要となるなど、低消費電力化が求められていた。

今回、研究グループでは、2mWの周波数シンセサイザを開発したほか、新たな量子部パッケージによる温度コントロールの効率化により、60mWの消費電力で駆動可能な小型原子時計の開発に成功したという。

  • 量子部パッケージ

    開発された量子部パッケージ (出所:産総研Webサイト)

また、その精度は、大型の原子時計とほぼ同等の1日あたり3000万分の1秒以下の精度を実現したとするほか、105秒(約1日)の平均化時間で2.2×10-12の長期周波数安定度を達成したとしており、これは一般的な水晶発振器を搭載した時計と比べると、約10万倍の正確性だという。

  • CMOS集積回路

    開発されたCMOS集積回路 (出所:産総研Webサイト)

なお、研究グループでは、開発に成功した原子時計は小型かつ低消費電力なため、自動車やスマートフォン、小型衛星など、さまざまな機器への組み込みが可能であり、そうした従来は搭載が難しかった機器に搭載することで、Society 5.0の実現に貢献できるとしてしており、5年後の販売開始を目指して今後も取り組んでいくとしている。