宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、タッチダウン運用計画の詳細を明らかにした。タッチダウンの日時は2月22日の8時頃。場所は「L08-B1」と「L08-E1」の2カ所が候補になっていたが、3カ月間の検討の結果、より狭いL08-E1の方に挑むことになった。

  • 着地候補地点のL08

    着地候補地点となっていたL08(ピンクの円)。最終的には、ここからさらに細分化されることとなった (C)JAXA/東京大/高知大/立教大/名古屋大/千葉工大/明治大/会津大/産総研

ピンポイントタッチダウン方式とは?

L08-B1は当初から考えられていた場所で、幅は12m程度。一方、L08-E1は前回の記者説明会で初めて発表された場所で、こちらの幅は6m程度と小さい。広さだけ見るとL08-B1の方が有利だが、L08-E1は降下の目印となるターゲットマーカーに近く、エリア内がより平坦で安全だという利点もある。

  • 位置関係

    L08-B1(赤)、L08-E1(緑)、ターゲットマーカー(TM)の位置関係 (C)JAXA

津田雄一プロジェクトマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授)によれば、最初は両にらみで検討を進めていたものの、解析を進めるにつれ、「明らかにL08-E1が有利なのが見えてきた」という。着陸精度を満たせるのはL08-E1だけであることが分かり、会議でもチームの総意としてすんなり決まったそうだ。

  • 津田雄一プロジェクトマネージャ

    タッチダウンについて説明する津田雄一プロジェクトマネージャ(右)

しかし狭いL08-E1に着陸するためには、±3mの精度が必要。もともとの想定では、タッチダウンは±50mの精度で考えられていたため、精度を10倍以上に高める必要があった。これを可能にするのが、はやぶさ2に搭載された新機能「ピンポイントタッチダウン」である。

はやぶさ初号機の従来方式は、分離して落下するターゲットマーカーを追尾し、水平方向の相対速度をゼロにして着陸するものだった。探査機はターゲットマーカー付近に降下することになるため、ターゲットマーカーの投下精度で着陸精度が決まっていた。

ピンポイントタッチダウン方式では、投下済みで、事前に正確な位置が分かっているターゲットマーカーを使用。このターゲットマーカーに対し、指定した相対位置に着陸することが可能だ。たとえばターゲットマーカーの北に2m、東に1mというように指定(オフセット)できるので、着陸精度はターゲットマーカーの投下精度には影響されない。

  • タッチダウン方式

    初号機の従来方式と、はやぶさ2のピンポイントタッチダウンの違い (C)JAXA

しかしいくらピンポイントタッチダウンとはいえ、そのままでは直径6mの円内への着陸は難しく、さらなる工夫が必要だった。

1つめは小惑星モデルの高精度化。より正確に検討できるよう、サイエンスチームが降下地域の岩の1つ1つの高さや形まで見直しを行った。また重力の影響も、より詳細に分析。降下する赤道付近には尾根があり、この質量により探査機の軌道が曲げられてしまうので、高精度な重力モデルを作成した。

2つめは自律制御のチューニング。着陸精度を高くするためには、探査機の位置制御や姿勢制御も、より細かく正確に行う必要がある。そのため、スラスタの噴射パターン、姿勢制御のパラメータ、ソフトウェアのタイミングなど、すべてをL08-E1への降下のために最適化したという。

3つめは着陸安全余裕の拡大。従来は、真上から水平姿勢で降下する方法だったが、L08-E1は東側に岩が多い地形であることが分かっている。あえて西側(サンプラーホーン側)を下に傾け、東側(イオンエンジン側)を浮かせた「ヒップアップ」姿勢を採用することで、岩を回避し、安全に着陸できるようにした。

  • 着陸のための3つの対策

    着陸の高精度化のために今回実施した対策は、この3つに集約される (C)JAXA

これらの対策により、現在の着陸精度は±2.7mと見込まれているそうで、「工学的な意味では成功すると考えている」と津田プロマネ。「最初は方法から議論し、どうやって実現するか検討してきたが、今はもう着陸方式が決まり、数字も固まってきた。それを間違いなくやるために、頭の温度を下げてクールにできるようにしたい」と述べた。

ピンポイントタッチダウンの着陸精度は、ターゲットマーカーから離れるほど悪くなる。この影響に比べれば、広さの違いは「さほど気にならない」(同)とのことで、狭いL08-E1の方がむしろ余裕が得られるという。ターゲットマーカーの投下後、狭いながら、近くに平坦な領域が見つかったのが大きな決め手になった。

  • L08-E1の円内の中心を狙う

    L08-E1の円内の中心を狙う。凹凸が少ないのも大きなポイントだ (C)JAXA

はやぶさ2は、目的地の小惑星リュウグウが想定以上に岩だらけだったため、タッチダウンの延期を余儀なくされていた。あまりの厳しさに「引きの悪さを感じた」とぼやいた津田プロマネだったが、「投下したターゲットマーカーの近くにこの地域があったのは幸いだった」と、数少ない幸運に感謝した。