ニュー・ホライズンズ

今回の探査を成し遂げたニュー・ホライズンズは、もともと冥王星の探査を目指した探査機である。NASAやジョンズ・ホプキンズ大学などが開発を行い、いまから約13年前の2006年1月19日に打ち上げられた。

機体は三角柱の形をしており、質量は465kg。その形や大きさから、よくグランド・ピアノに似ているとたとえられる。

最も目立つ部品は、直径2.1mの大きな皿のような部分で、これは地球との通信に使うためのパラボラ・アンテナである。

また、三角柱の頂点のひとつからは黒い筒状の部品が飛び出ている。これは放射性物質のプルトニウム238を使った電池(放射性同位体熱電気転換器、RTG)で、プルトニウム238が崩壊するときに出る熱を利用し、探査機を動かすのに必要な電気を作っている。

機体には、7種類の観測装置が搭載されている。

  • 「アリス(Alice)」:紫外線で撮影するカメラ。冥王星など天体の大気の構成や構造を調べる。
  • 「ロリ(LORRI)」:望遠鏡のようなカメラで、高い解像度で地表を撮影する。
  • 「ペプシ(PEPSSI)」:冥王星の大気から逃げ出しているプラズマ(イオン)の構成や密度を調べる。
  • 「ラルフ(Ralph)」:可視光と赤外線で撮影するカメラ。天体の色や地表の構成物、熱の分布などを調べる。
  • 「レックス(REX)」:パラボラ・アンテナ部分に取り付けられた放射計。大気の構成や温度を調べる。
  • 「SDC」:宇宙塵の数や分布を計測する。
  • 「スワップ(SWAP)」:冥王星のまわりの太陽風を調べ、冥王星との相互作用や、冥王星の大気がどれぐらい宇宙空間に流出しているのかを調べる。
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    ニュー・ホライズンズの想像図 (C) NASA/JHUAPL/SwRI

ニュー・ホライズンズは打ち上げ後、途中で木星で軌道を変え、さらに観測機器の調整をかねて、木星やその衛星、土星や小惑星などの観測も行いつつ、約9年かけて宇宙を航行。そして2015年7月14日20時49分57秒、冥王星の上空約1万2500kmを、約14km/sの速度で通過した。

人類が初めて間近に見る冥王星は、ハートの形をした領域や、氷でできた標高3000m級の山々、氷の平原や氷河のような地形があるなど、変化に富んだ天体だった。

また、地表にはクレーターが少なく、これは冥王星は1億年ほど最近まで、あるいはいま現在も活動しており、それによって山ができたり、火山のように地下の物質が噴き出して表面を覆ったりして、クレーターがかき消されたのではないかと考えられている。

  • ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星<!-- Original end -->

    ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星 (C) NASA/JHUAPL/SwRI

冥王星の観測後には、衛星の「カロン」、「ニクス」、「ヒドラ」、「ケルベロス」、そして「ステュクス」の観測も行っている。

これらのデータは、1年以上かけて地球に送られた。また同時に、冥王星の観測後もニュー・ホライズンズの状態はすこぶる正常だったことから、運用チームはミッションの延長を提案。2014年に発見されたウルティマ・トゥーレに向け、2015年10月から11月にかけて軌道修正が行われた。その後2016年に、NASAにより延長ミッションが正式に承認されている。

そして2017年12月21日から、観測機器などを温存するため必要最低限の機器以外の電源を落とす「冬眠」(Hibernation)モードに突入。約6か月の眠りを経て、2018年6月5日にニュー・ホライゾンズはあらかじめ送られたコマンドに従って起床。探査機の各機器や観測装置の機能確認や調整、軌道の微調整などを経て、今回のウルティマ・トゥーレのフライバイを成し遂げた。

ニュー・ホライズンズの今後

まだウルティマ・トゥーレの探査が終わった直後だが、探査機の状態が正常で、また推進剤にも余裕があり、RTGも2030年代の後半までもつことなどから、ニュー・ホライズンズの運用チームは、さらにまた別の天体の探査に向けた構想を立てている。

その実現のためには、ニュー・ホライズンズのミッションをさらに延長するための予算が認められるか、そして探査機の余力でフライバイできる、ちょうどよい天体が見つかるかどうかなど、いくつもの関門がある。運用チームも、まずはウルティマ・トゥーレのデータ受信や分析に全力を尽くすとしているが、それでも関係者は、楽観的な見通しを語る。

スタン氏は会見で「地球からは不可能な、カイパー・ベルトのさらなる深い探査のために、ニュー・ホライズンズの望遠鏡を活用することができるでしょう」と語る。

そして「2020年代に、さらにもうひとつのエッジワース・カイパー・ベルト天体を探査することにも希望が持てます」と続けた。

ニュー・ホライズンズがその名のとおり、これからもさらに新たな視野、展望を切り拓いていってくれることを期待したい。

出典

New Horizons Successfully Explores Ultima Thule
NASA's New Horizons Mission Reveals Entirely New Kind of World
New Ultima Thule Discoveries from NASA's New Horizons
Best Wishes from around the World 'Beamed' toward New Horizons in the Kuiper Belt
New Horizons : The New Horizons Mission

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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