東京工業大学(東工大)は12月25日、災害現場などの厳しい環境でも動作可能なタフな油圧駆動型ロボット用アクチュエータを開発。その実用化の推進に向け、大学発ベンチャー「株式会社H-MUSCLE(エイチマスル)」を設立したことを発表した。
ロボット利用を前提とした高性能アクチュエータ
油圧駆動型ロボットは、一般的な電気モーター駆動式に比べ、衝撃に強く、パワー(出力)も大きくできるため、建築現場や災害復旧など、大きな物体を移動させるなどの必要がある環境におけるロボットとして期待されている。しかし、パワーショベルなどの一般産業機械向けに開発されたアクチュエータは、ロボット用としては、大きく、また重すぎ、そして、摩擦の影響からなめらかな動きや力の制御には適していなかった。
今回の油圧アクチュエータは、こうした課題を解決することを目的に開発されたもので、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「タフ・ロボティクス・チャレンジ」の一環として、建設ロボットや脚ロボットへの適用を目指して進められてきた。
具体的に、開発された油圧アクチュエータを使えば、電気モーターロボットに比べ、耐衝撃性や耐環境性に優れ、かつ2~4倍ほどのエネルギー密度を実現したロボットを開発することができるようになる。また、従来の油圧機器に比べても、数倍~10倍程度の高f/m(出力/質量)比を実現しつつ、1/10以下の低摩擦を実現。小型、軽量ながら、力持ちかつなめらかな動きを可能とするものとなっている。
実現できたのは、JIS規格が規程する最小の内径32mmよりも小さいシリンダの製造ノウハウを有するJPNの協力があったほか、なめらかな動きのための低摺動パッキンの採用や、軽量化のためのチタンや多軸鍛造マグネシウム合金の採用によるものとする。また、ロボットの用途的にはモーターも360°回転する必要がないため、新たに中空シャフトを採用した小型・軽量・低摺動揺動モーターも開発。この中空部にケーブル類を通すことで、取り回しのしやすさなども向上させることを可能とした。
例えば大阪大学とコマツを中心に開発が進められた建設ロボットに向け、6本のシリンダを用いた「タフハンド」の場合、バケット(シャベル)モードとハンドモードに用途に応じてアタッチメント交換なしに可変して切り替えることを可能としたほか、脚ロボット向けとしては、4種類の合計7個のモーターを活用することで90mmの厚さのコンクリートを一瞬で割ることが可能なくらいの強靭さを実現した。
ロボット向け油圧アクチュエータベンチャーが誕生
今回進められてきた研究開発プロジェクトには、東工大のほか、岡山大学、立命館大学、JPN、ブリヂストン、KYBなどが参加。プロジェクト事体は2018年度で終了してしまうため、今後のロボットへの適用のほか、継続的な技術提供の実現や、民生分野への波及を目的に、ベンチャーを立ち上げたという。
すでに2019年2月にはサンプル品の出荷を予定しており、実際に自動車関連メーカーから、引き合いを受けているとするほか、複数のメーカーから問い合わせを受けている状況だという。
なお、H-MUSCLEの代表取締役を務める東工大 工学院の鈴森康一 教授は、「立ち上げたばかりで、どういった需要があるかについて手探りの部分もある。現在は人数も限られており、受託設計・製造という形が中心となっているが、2019年のサンプル提供の開始時期ころまでには、標準品のラインアップを用意したい」と、興味をもってくれた人や企業が手軽に入手できる体制を整えたいとしている。
2018年12月27日訂正:記事初出時、鈴森教授の氏名を誤って記載しておりました。正しくは鈴森康一 教授となりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。