江戸時代の1771年に起きた「八重山巨大津波」の原因は大規模な海底地滑りだった可能性が高い―。このような解析結果を、産業技術総合研究所(産総研)などの共同研究グループがこのほど発表した。八重山巨大津波は石垣島、宮古島などを中心に約1万2千人の犠牲者を出した江戸時代の大災害として知られる。その原因についてはいくつかの説があったが結論は出ていなかった。今回の成果について研究グループは2島周辺地域の津波想定や防災対策に役立つと期待している。
八重山巨大津波は1771年4月24日(和暦では明和8年3月10日)に発生。巨大津波が石垣島、宮古島などを襲った。これまでの研究で最大波高は30メートルに達し、この2島を中心に約1万2千人の犠牲者を出したとされている。「明和の大津波」とも呼ばれるこの歴史的な巨大津波の原因については、「プレート沈み込み境界で発生した地震」「活断層型地震」「海底地滑すべり」など、いくつかの説が提案されてきたが、結論は出ていなかった。
共同研究グループは、産総研・ 活断層・火山研究部門を中心に海上保安庁・海洋情報部、建築研究所、東北学院大学の研究員で構成された。産総研は、日本海周辺の海底地質図整備の一環として2008年から大規模な海底地形と海底地質構造の調査を実施。2016年からは海上保安庁・海洋情報部からデータの提供を受けるなどし、各研究機関が共同で八重山巨大地震の原因究明を進めてきた。
共同研究グループは、石垣島と宮古島の南方沖で新たに得られた詳細な海底地形データや海底地質構造データを解析した。その結果、「琉球(南西諸島)海溝」沿いの斜面に長さ80 キロ以上、幅30キロ以上の広い範囲にわたって陥没した地形があり、大規模な海底地滑りがあったことが判明。また数値計算によりこの海底地滑りで発生する津波の高さは、八重山巨大津波の推定津波高と匹敵することも分かったという。
共同研究グループは、大規模な地滑りは巨大な横ずれ断層が関与して起きた可能性が高いとみている。また今回の解析結果から、石垣島や宮古島、西表島、与那国島など、台湾に近い先島諸島付近では今後も巨大津波が発生する可能性があるとした一方、先島諸島以外の、沖縄本島を含む南西諸島付近で発生する可能性は低いと予測している。
これまでは八重山巨大津波の原因がはっきりしていなかったため、同じような巨大津波が石垣島や宮古島ばかりでなく、南西諸島の多くの島々の付近でも発生する可能性を否定できなかった。
2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が起きて巨大津波による甚大な被害を出した。この深刻な事態を受け、国が主導して日本列島沿岸で過去発生した巨大地震や津波に関する研究、海底のプレート境界・活断層の調査などが精力的に進められた。その結果、南海トラフや日本海溝、千島海溝、日本海沿岸などで想定される大きな地震や大津波の規模予測が公表されている。しかし、南西諸島全体については地震や津波の規模を予測する情報が不足していた。
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