英ArmはSJCC(San Jose Convention Center)(Photo01)で10月16日より開催されているArm TechCon 2018の基調講演において、インフラストラクチャ向けとなる新たな基盤「Arm Neoverse」を発表した(Photo02)。

  • 会場のSJCC

    Photo01:昨年まではサンタクララにあるSCCC(Santa Clara Convention Center)での開催だったが、今年からSJCCに開催場所を移転した

  • Drew Henry氏

    Photo02:基調講演でNeoverseを説明するDrew Henry氏(SVP/GM, Infrastructure Business Unit)

Armの悲願がサーバマーケットへの進出にあるのは広く知られてる話である。ただしクラウドやHPCに関してはまだまだ(HPCに関してはポスト京という切り札もあるが、これも汎用というよりはほぼ専用プロセッサであり、ちょっと話が異なる)であるが、その一方でことコミュニケーション(通信)インフラに関してはすでにかなりのシェアを握っている(Photo03)。

  • Armのマーケットシェア

    Photo03:ただしこれはインフラとエッジ、Regidential Gatewayまで含んだ話なので、これで本当に「ArmがNo.1のシェア」かといわれるとちょっと難しいのだが

もっともこれは、単なるサーバ用CPUだけでなく、サーバ用のネットワークカード上に載っているTCP Offloading用のプロセッサなども勘定に入れてるようなので、純粋にサーバ用のプロセッサとして数を数えるともう少し少ない気もするが、そうは言いつつもNXPのLayerScapeやCavium(現 Marvell)のThunderXシリーズなどコミュニケーション向け製品の数自体は少なくないほか、Residential Gateway(ホームゲートウェイ)や家庭/SOHO向けルータ、アクセスポイント、(日本では利用が限られているが)ケーブルモデムなどでは、Arm一色といった感じになっているため、まるっきり嘘というわけでもない。

さてそのコミュニケーション向けであるが、エンドポイントは1T(1 Trillion)台のデバイスが溢れかえると予測されている。もちろん、この1T個のデバイスが生成する生データがそのままクラウドに上がる訳ではなく、エッジである程度フィルタリングされるのは間違いないが、それでも洒落にならない量のデータがクラウドに殺到することになる。

このデータを処理するためには、もっとデータ処理に向いたプラットフォームが必要である、というのがArmの主張である(Photo04)。

  • データ消費の流れ

    Photo04:エッジにおけるFilter&Reactは現在のCortexで処理できるが、Analyze&Storeには足りない、ということ

これにむけてArmが今回発表したのがNeoverseとなる(Photo05)。

  • Neoverseの特徴

    Photo05:Neoverseの特徴。ちなみに発音は「ネオバース」よりも「ニオバース」に近い

まずそのコアだが、現在はCortex-A72/A75コアを利用した「Cosmos Platform(開発コード名)」となっているが、この先「Ares(おそらくはCortex-A76ベース)」、「Zeus」、「Poseidon」の各プラットフォームが提供される見通しだ(Photo06)。

  • 30%の性能向上見通し

    Photo06:ちなみに30%はプラットフォーム全体での性能比だそうで、当然この中にはプロセス微細化による高速化とかも含まれる

世代ごとに30%の性能向上と新機能の搭載を行う、というのがArmのコミットメントである。また異様に柔軟性が高い(Photo07)のも特徴で、単にプロセッサIPだけでなく、さまざまなインフラ向けIPがArmおよびエコシステムから提供されるとする。

  • Neoverseの特徴

    Photo07:もっともこれ、全部の世代でどこまでカスタマイズできるのかは良く判らない。パイプラインの長さとか幅、深さまでカスタマイズ可能というのは、普通の発想ではすごく難しそうである。SIMDに関してはSVEがあるから、まぁ判らなくもない

  • Neoverseの概要

    Photo08:これとArmのSBSA(Server Base System Architechre)の関係も現時点では不明。このあたりはまた確認したい

これと組み合わされるのが、Photo05で2番目に出てきた"Diverse Solutions and Ecosystem"である。まずIPとしてはPhoto09のような感じになる。

  • エコシステムの概要

    Photo09:一番上のみがArmで、その下はさまざまなパートナーやファウンドリが提供する形

ハードウェア/システムパートナー(Photo10)やソフトウェアパートナー(Photo11)もすでに多く用意されており、以前に比べると圧倒的にインフラ向けに参入する準備が出来ていることをうかがわせる。

  • AWSの代わりに子会社が参加

    Photo10:AWSが無い…と思ったら、Amazon傘下のannnapurnalabsが参加していた

  • エコシステムの概要

    Photo11:主だった企業がパートナーとして名前を連ねているのはさすがというべきか

ところで、そもそもNeoverseとは何ぞやという話になるわけだが、今のところは要するにプラットフォームのブランド名である。ではそのNeoverseのプラットフォームで何ができるか? というのがPhoto12だ。

  • スケーラブルシステムの概要

    Photo12:ビッグコアを最大128個、データプレーンを扱うスモールコアを最大256個構成できるのだが、これがDynamIQベース、というのが「?」な部分

エッジからクラウドまでスケーラブルに展開できるインフラストラクチャ、というのが現時点でのNeoverseの提供する「モノ」ではないかと思われる。NFVあるいはSDN/SDS向けのプロセッサであればPhoto13のような構成だし、エッジであればPhoto14のような構成、クラウドであれば計算が集中するので、ひたすらコアの数を増やす上に、CCIXを使ってのマルチコアも可能としている(Photo15)。

  • 差別化部分とコア部分

    Photo13:右側の破線部はサードパーティあるいは顧客が自身で開発される差別化の部分で、左のCore ComplexがNeoverseの提供部分である

  • エッジソリューションの構成例

    Photo14:いくぶん重厚な構成になる。また外部I/FにCCIXが本格的に出てきた

  • クラウドソリューションの構成例

    Photo15:ただこれだとNeoverseのメッシュがCCIX経由で拡張できるという意味に取れるのだが、その解釈が正しいのかも現状では不明

話を戻すと、ではNeoverseというのはインフラストラクチャの名前であって、製品名ではないのか? というと、それもちょっと現状では不明である。

基調講演後の質疑応答の中で、Henry氏は「エッジに関してはCortexを使うが、クラウドインフラにはNeoverseとなる」としており、そもそも製品名が異なる可能性がある。もっと基本的な話をすると、少なくともCosmos Platformに関してはおそらく既存のCortex-A72/A75のPOP IPがそのまま使われる事になるが、このPOP IPは基本的に高効率(性能/消費電力や性能/エリアサイズを最大化)を狙ったPPA Optimizationが施されている。ただクラウド向けとなると、むしろ性能の最大化などが求められつつあるはずで、Neoverse向けには異なるPPA Optiizationが施されたPOP IPが求められる可能性もある。このあたりは今後予定されているDeep Diveのテクニカルセッションなどで多少なりとも公開されるかもしれないが、本稿執筆時点(2018年10月16日)では不明のままである。このあたり、詳細がわかり次第続報の形でレポートをお届けする予定だ。