スタートアップを支援する理由、始める理由

第二部は「実際にイノベーションを起こした実例」として、「Makersから始まるInnovation~Makersが新しいInnovationを起こす時代に~」と題したパネルディスカッションが行われた。

登壇者はマクニカ Mpression推進部 部長 米内 慶太氏とエレファンテック 代表取締役社長 清水 信哉氏。

  • マクニカ Mpression推進部 部長 米内 慶太氏

  • エレファンテック 代表取締役社長 清水 信哉氏

米内氏が所属するマクニカは電子部品流通で最大手企業であり、さまざまなスタートアップの支援も行っている。清水氏が代表取締役を務めるエレファンテックは、印刷技術を用いて基板製作を行うスタートアップ企業だ(2017年にAgICから社名変更)。

マクニカの米内氏は「なぜスタートアップを支援するのか?」という問いに対して、「新しい変化を起こすことで人にイイネと言われること、支援によって日本の産業に貢献できることが嬉しい」と答えた。スタートアップを支援し、また顧客にスタートアップを紹介することで、皆の幸せを拡大したいと語る。

また、従来日本のものづくりを支えているのは中小企業が多かったが、最近はスタートアップ企業や「Makers」という層が充実してきていると米内氏は語る。「Makers」とはデジタル工作機械を活用した新しいものづくりや、新技術や新しいアイディアを持った小規模メーカーや個人を指す。彼らを頼るだけでなく支援することで、自らも努力するスタートアップとオープンイノベーションを加速させていきたいという。

  • 今多くの「Makers/Startup」が生まれつつあり、中小企業や彼らを支援していくことがこれから重要だという

続いて、スタートアップ企業側のエレファンテック・清水氏に「なんでスタートアップを行ったの?」と米内氏。清水氏は、(スタートアップが多い)スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)に行った自身の経験を元にその理由を語った。

清水氏が東京大学(東大)に在籍していた当時、アメリカではスタートアップが盛んに行われていたが、東大ではあまり聞かなかったという。在籍していた東大とスタンフォード大学やMITを比較してもエンジニアリング力やビジネス力は大差なく、単純にスタートアップを始める気楽さのハードルが段違いだと感じた清水氏は、自分がスタートアップを始めることで、道を切り開きたいと考えたそうだ。

  • 清水氏によると、アメリカと日本の違いは新しいことを始めようという数の多さだけだという

スタートアップの空白地帯

再び米内氏に戻り、「なぜ製造業であるエレファンテックを支援しようと目を付けたのか」という問いに対して、「清水氏がテクノロジーとビジネス両方の視点を持っていること」と「量産設計・量産の領域がイノベーションの空白地帯だったから」と理由を述べた。

現状、アイディアから限定生産・マーケティングの領域は盛り上がっているものの、その後量産設計から量産販売の部分はまだ薄く、実際のものづくり・製造に繋げることが難しいという。Makersは大企業と全く異なるモデルで動いているため、製造の段階で大企業のモデルを使えないことが多い。そのためこの空白の領域にエレファンテックのようなスタートアップが入ることで、Makersの世界が面白くなってくるという。

  • メーカーである大企業(上)とMakers/Startup(下)の開発モデルを比較した図。Makers/Startupは量産設計から販売にかけての部分が希薄であり、ここを育てる事で大きく市場が変化するだろうと米内氏は語る

その「空白地帯」である製造業で、清水氏はなぜ基板製造のスタートアップを行ったのか。その理由として、ハードウェア系のテクノロジー、製造分野であれば世界に勝てる可能性があると感じたからだという。講演では例として東レの炭素繊維を挙げたが、他では作れない技術があれば、根性論や価格ではなく製造技術や先端技術でオンリーワンが狙えるという考えだ。

最後に米内氏はスタートアップを支援する側として、既存のもので良しとする社内への説得やイノベーターへの説明など、スタートアップ支援は大変なこともあるが、どこにいてもイノベーションは起こせると語った。また改めてのお願いとして、「スタートアップの技術が良いと思ったら、自分たちで複製化しようとするのではなく、ぜひ購入して味見していただきたい。すべて欲しいなら、ちょっと乱暴ですが会社ごと買うくらい考えて欲しい」と来場者にメッセージを送った。

  • イノベーションはどこにいても可能であること、また企業はノウハウを複製化するのではなく、スタートアップを支援することで試してほしいと伝えた