カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、電子のトンネル効果を利用したナノサイズの発光デバイスの作製に成功したと発表した。チップ上に搭載可能で光データの高速処理などに使える超小型光源の実現につながるとしている。研究論文は「Nature Photonics」に掲載された。

  • UCSD 電子のトンネル効果を利用した発光デバイス

    今回作製された発光デバイスのイメージ。直方体の銀のナノ結晶2個のコーナー部分を向かい合わせにして形成した接合部を電子がトンネルするときに光子が放出される (出所:UCSD)

UCSD電気工学・コンピュータ工学教授のZhaowei Liu氏らのチームが開発を行った。デバイスは銀のナノ結晶でできており、電子の非弾性トンネル効果と呼ばれる現象を発光に利用している。非弾性トンネル効果とは、金属-絶縁体-金属(MIM:metal-insulator-metal)接合構造などをもつ固体壁を電子が通り抜けていく現象である。

電子がMIM接合の壁を通り抜けるとき、電子はもっていたエネルギーの一部を失う。この差分のエネルギーが光となって放出されるというのが今回のデバイスの発光原理となっている。

  • UCSD 透過電子顕微鏡

    デバイス構造と接合部の透過電子顕微鏡像 (出所:UCSD)

デバイスの構造は、2つの直方体型の銀の単結晶のコーナー部分同士を向かい合わせにし、幅1.5nmの微小な隙間をあける。この隙間にポリビニルピロリドン(PVP:Polyvinylpyrrolidone)でできた絶縁層を形成して、銀-PVP-銀のMIM接合とする。

銀のナノ結晶に電極を接続して電圧をかけると、PVPの壁を電子がトンネルする。このとき電子のエネルギーの一部が表面プラズモンポラリトン(金属-絶縁体界面を伝搬する電磁波)に転移し、これが光子のエネルギーに変換される。

論文では、今回のデバイスの発光効率は約2%に達したと報告されている。この値は先行研究と比較して2桁の効率向上であるという。

  • UCSD 銀ナノ結晶を用いたトンネル接合デバイスの電子顕微鏡

    銀ナノ結晶を用いたトンネル接合デバイスの電子顕微鏡像 (出所:UCSD)

研究チームによると、これまでに報告されていたMIM接合では、金属結晶の表面全体が接合界面として使われていたために発光効率が低い値にとどまっていた。今回のデバイスでは直方体型の金属のコーナー部分だけを接合界面とし、壁となるギャップのスケールを小さくすることで発光効率が向上したと説明されている。

こうしたデバイス構造は、従来のナノリソグラフィの手法では形成が難しかった。今回は溶液ベースの化学的手法を使って、原子レベルの表面平坦さと極めてシャープなコーナー形状を実現したとする。今後さらなる発光効率の向上をめざしてデバイス形状や材料に関する研究を続けるという。