日本企業特有のニーズに応えるマーケティング機能を開発

AIテクノロジーの企業であるAppierは今年6月、マーケティングプラットフォームの機能を強化し、マーケティングファネルごとに取得する顧客の購買行動データをAIで分析できるようにした。これにより、見込み顧客を高い精度でターゲティングしたり、ライフタイムバリュー(LTV)の高い顧客を獲得したりできるようになった。

AIプラットフォーム「AIXON」で知られるAppierだが、もう1つの製品ラインとして「CrossX」というマーケティングプラットフォームも展開している。今回の機能強化は、このCrossXマーケティングプラットフォームに関するものだ。

マーケティングプラットフォームというと、近年では、SFA/CRMサービスやMAツールへのAIエンジンの搭載などが積極的に進められている状況だ。それらを使って、例えば、ファネルごとの顧客の購買データをスコアリングし、そのスコアを参考にしてキャンペーン施策などを実行するといったことが可能になっている。

AppierのCrossXがこうした他社のAI機能と異なるのは、AI技術を後付けしたのではなく、そもそもAIエンジンが組み込まれたマーケティングプラットフォームのなかで、さらに機能を強化したという点にあるようだ。

Appierでは、このファネルごとのAI分析のことを「ディープファネルの最適化」と呼んでいる。AIを追加したのではなく、あくまで、LTVの高い顧客をいかに獲得するかをテーマに、AI技術を活用してファネルの深い分析を可能にしたことがポイントだ。ファネルについても、最近のマルチデバイス環境を考慮し、タブレット、スマートフォン、PCなどの利用状況や行動特性を把握して分析できるという。

この新しい機能は、日本企業のニーズに応えるために約2年前から開発がスタートし、数社においてトライアルが行われてきた。その1社が通販化粧品大手のアテニアだ。

AIで「最初から長くお付き合いしてくれそうな人」を見つける

アテニアは、おしみなく、うつくしくをブランドステートメントに掲げ、女性の真の美しさを追求し「一流ブランドの品質」を「3分の1の価格」で提供することに挑戦し続け、多くの女性達の願いを形にしている企業だ。通販大手ファンケルのグルーブ企業で、2019年に創設30週年を迎える老舗の1つでもある。

Webやカタログで通販を行うだけでなく、対面販売を行う店舗を16店展開する。新規獲得はこれまでチラシや新聞、雑誌なども活用していたが、2014年からはすべてWebにシフトしている。

アテニアの営業戦略室 広告宣伝部長 兼 PRグループ課長の新海喜顕氏は、Appierとの新機能開発の背景には、顧客獲得のためのアプローチの変化があったと話す。

  • アテニア 営業戦略室 広告宣伝部長 兼 PRグループ課長 新海喜顕氏

「新規のお客さまの獲得自体は好調だったのですが、長期的に利用していただくとなると、製品自体の魅力を知ってもらうことが大切です。そこで、お客さまとコミュケーションをとってブランド価値を高める施策を行うわけですが、この数年は新しいお客さまを獲得しても、継続しないというケースが目立つようになってきました。そこで、発想を変え、新規のお客さま獲得の段階から継続しやすいお客さまを獲得できないかと考えるようになったのです」(新海氏)

同社では、長年のデータベースマーケティングなどのノウハウもあり、効率よくマーケティング活動を実施できていた。ただ、長期的に顧客との関係を作っていかなければ、新規に獲得した顧客は簡単にブランドスイッチを起こしてしまい、ビジネスとして成立しなくなる。そのため、獲得した顧客のロイヤリティを高める施策を行うことになるわけだが、競争環境の激化や顧客の多様化によって年々顧客とのコミュニケーションが難しくなっているという。そこで、発想を逆転させたわけだ。

「入口のハードルを上げてでも、継続して商品を購入いただけるお客さまを獲得するほうが長期的に見て成果がでるのではないか。ちょうどAIが盛り上がりはじめた時期でもあり、AIを使って『はじめからAttenirと長くお付き合いしてくれそうな人』を見つけられないかと考えたのです」(新海氏)

ファネルごとに顧客の行動パターンを分析し予測モデル作成

アテニアには通販事業者として非常に多くのデータを蓄積しており、なかには十分に活用できていないものもあった。また、データが豊富にあっても、分析から施策への落とし込みまで時間がかかり、落とし込んだ時点で市場の傾向が変わっていることもあったという。

「そんな時に、Appierから『AIは、人間ではなかなか見つけられない行動履歴を分析して最適なアプローチができます』という提案を受けました。そこで、今までのような獲得効率だけでなく、最初から継続しやすいお客さまを見つけられないのかと聞いてみたら、自信のある顔で『できますよ』と。そこからトライアルが始まったのです」

最初から継続する顧客を獲得できれば、購買後に顧客が期待とのギャップから不満を抱くことも少なくなり、ブランドスイッチが起こりにくくなる。広告費回収も早くなり、事業の成長に直結する可能性が高い施策となる。

実際の取り組みとしては、マーケティングファネルごとにタグ(識別のためのコード)を埋め込み、購買行動を把握できるようにし、ファネルごとに「継続しやすい顧客」の行動パターンをAIで抽出していった。

具体的には、過去の商品購入履歴、注文金額、Webサイトへの訪問頻度、訪問時間、閲覧した商品、ショッピングカートの情報、実際の購入行動などのデータから、「5日感で2回訪問したケース」「14日間でカートに追加したケース」「10日間で購入したケース」などのLTV予測モデルを構築し、その予測モデルに沿ってキャンペーンを実施。キャンペーンの結果を予測モデルへ反映させ、再学習するというプロセスを繰り返していった。

いわゆるRFM分析などと異なるのは、1人の顧客が認知から購買に至るまでのファネル全体を通した購買行動を分析していること、また、1人の顧客がPC、タブレット、スマホといったデバイスを使い分け、そこで触れるメディアや広告、行動の違いなども分析していることにある。こうした複雑多岐にわたるデータから手動で相関関係を導いていくことは至難の業だ。だが、AIならば、自動で予測モデルを抽出することができる。