「働き方改革」「業務改善」といった課題を解決する手段として、RPA(Robotics Process Automation)による業務の自動化が注目を集めている。既に日本でも多くの企業がRPAの導入を始めているが、保険大手の第一生命保険もRPAを導入して業務の効率化を進めている。

今回、RPAの導入を決めた第一生命保険 事務企画部長 拝田 恭一氏に、RPA導入の背景、効果、今後の計画などを聞いた。

  • 第一生命保険 事務企画部長 拝田 恭一氏

2万7000時間分の業務をRPAで代替

第一生命保険のRPA導入は、働き方の改革、そしてイノベーション創出による成長戦略の下で行われている。拝田氏は、「生産性を高めて競争力をつけていくという課題があり、そのための手続きをデジタル化する必要があった」と振り返る。手作業を機械化するにはシステム化という選択肢しかないと思っていたところに、RPAという技術を知った。それが2016年のことだ。「システムの導入は効果が出るまでに時間がかかるが、RPAなら大規模な投資をすることなく自動化ができそうだと思った」と拝田氏、早速PoC(Proof of Concept:概念実証)を行った。

PoCとはいえ、導入を前提としたものであり、製品の技術的な検証と製品選定が大きな目的だった。並行して、RPA導入によりどのぐらいの業務が削減できるのかについても分析した。RPAツール(製品)は、「最も汎用的にRPAを進められるか」を軸にBlue Prism、Automation Anywhereを含む主要ベンダーの5製品を調べ、最終的にBlue PrismとAutomation Anywhereを導入することにした。

PoCの後にPoV(Proof of Value:価値実証)とインフラ構築を経て、2017年度にはトライアル稼働をスタートさせた。そして2018年度に入り、本格的に全社展開を始めた。

導入したロボットの数は既に90を超えている。その中には、反社会的勢力のチェック検証、新商品開発のテスト検証、融資先など企業の格付け情報作成など約20所属の業務が含まれる。例えば新商品開発では、システム検証作業に必要なテストデータ作成にRPAを用いた。時間にして418時間をRPAで代替できたという。反社会的勢力のチェック検証作業とは、年に1度更新される反社会的勢力のデータベースに付き合わせて全保険契約の契約者をチェックするという作業で、2250時間分をロボットが行った。総じて、2万7000時間分をRPAで代替したという。

本格展開となった現在、月に15~20業務のペースでロボット開発を進めており、年後半にはこのスピードをさらに加速させる。「今年度で約450の業務を新たに稼働したい」と拝田氏、時間に換算すると55人分(10万時間)を自動化することになる。

RPAを使いこなすために必要な技術を見極めよ

第一生命保険のRPA導入が順調に進んでいる背景には、土台の整備も並行して進めてきたことが関係ありそうだ。「ロボットを入れれば何でも自動化できるという考えだと、計画は頓挫する。RPAの特性を理解して、RPAの導入と同時にRPAを使うために必要な技術は何かという見極めが必要だ」と拝田氏は言う。

例えば、土台として、RPAに必要な紙ベースの書類をデジタル化しておくことが重要だ。「BPR(ビジネスプロセスエンジニアリング)をやらないとRPAはうまくいかないが、BPRを待つのではなくBPRとRPAを同時に進めることができる」と、拝田氏はいう。短期で成果を実感できたことが、RPA導入の加速につながっているようだ。

Blue PrismとAutomation Anywhereの2製品を導入していることについても、「1製品しか使っていない場合、何か1つでもやってみてできなかったら諦めてしまうかもしれない。しかし、2製品あれば1つの製品でうまくいかなくても、もう1つの製品でうまくいく可能性がある」と説明する。

2社の製品を導入してもコストは大きく変わらない上、スキルも1つ目の製品を習得すれば、2つ目の製品を使いこなす敷居は格段に低くなるとのことだ。