AMDのSteve Longoria氏(SVP Sales,Embedded and ProGraphics Sales)は、同社のサーバと組み込み事業の事実上のトップである。そんな同氏が2018年4月に来日、普段あまり説明されることの無い、AMDの組み込み戦略について話を聞く機会をいただいたので、その内容をインタビュー形式にてお届けしたい。なおこのミーティングには日本AMDの林田裕氏(エンタープライズ・ソリューション営業本部 アジアパシフィック・日本担当 本部長)も同席され、日本の状況などの説明を行っていただいた(Photo01)。

サーバの世界に舞い戻ってきたAMD

ーーまずサーバ分野についてお訊ねします。かつては30%近いシェアを持っていた同市場ですが、その後1%未満まで落ち、(AMDのシェアは)すべて競合に持っていかれてしまいました。これをどうやって奪回されますか? 加えて言えば、以前と異なり、Armベースのサーバという新たな競合も登場してきました

Longoria氏(以下、特に記載のない発言はすべて同氏のもの):AMDはご存知の通り、Armとx86の両方を提供する能力があるが、数年前に顧客の要望、それとソフトウェア環境やエコシステムなどの状況を勘案し、x86に注力する決断をしている。だからサーバもx86ベースということになる。市場からは「(AMDに)市場を牽引できる能力があるか?」と問いかけがくるわけだが、これはPCや組み込みの世界でも同じだ。特に顧客は「x86のサーバアプリケーションを高速に実行できるか?」と聞いてくることが多い。

こうした顧客の声をフィードバックして、サーバマーケット向けに新たに設計されたのがZenアーキテクチャであり、これを当初のマーケットにEPYCとして投入することが我々の答えだ。今のところサーバマーケットにx86アーキテクチャを投入できるのはAMDとIntelだけだ。他のメーカーはライセンスの関係でx86アーキテクチャは投入できないから、Armになるわけだ。

確かにArmへのトラクションは掛かりつつあるが、マーケットは依然としてごく小さい。現時点でのソフトウェアエコシステムはx86に最適化されており、そして我々もx86に多大な投資を行っているし、それは顧客も同じだ。

Zenの反応は非常に良い。主要なOEMはみなZenに関心を抱いている。Dell、HP、SuperMicro、Lenovoなど。主要なODMも同じで、台湾メーカーや日本のサーバメーカーもこれに含まれる。GIGABYTE、SuperMicro、Quanta、Inventecなどなど大勢居る。

  • Steve Longoria氏と林田裕氏

    Photo01:左がSteve Longoria氏。ちなみに前職はSOITECのSVP Strategic Business Development、その前はNetLogic、さらにその前はIBM。現CEOのLisa Su氏とはIBM時代にEmbedded PowerPCの開発で一緒に仕事をされたとか。右が林田裕氏

ーーしかしながら、すでにエンドユーザーはIntelのサーバCPUを使っている訳で、彼らが今使っているサーバを捨ててまで、AMDに乗り換えることは考えにくいのですが?

OEMにしてもエンドユーザーにしても、「選択肢」が出来る、これに尽きると思っている。x86を使いたいと彼らが考えたときに、2つ目の供給元があるのは重要な事意味を持つこととなる。我々はIntelと比較して、同じ価格なら30~35%性能が高い。場合によってはさらに差が生じる。特にこれは1Pサーバマーケットで顕著だ。Yahoo Japanの事例もこれにあたると思う。Intelの2Pサーバを我々の1Pサーバで置き換えが可能になったという良い例だ。

我々の戦略は、x86ベースでの差別化を提供する事で、エンドユーザーにより良い選択肢を生み出すことに在る。

ーーアプリケーションについてはいかがでしょう? サーバの場合、単にその上で動くアプリケーションだけでなく、システム管理とかミドルウェアなども大きなポイントになると思われます

OSの視点からすれば、主要なOSはすべてサポートしているし、HyperVisorなども同じだ。我々は引き続きエコシステムパートナーと緊密に協力し合って最適化を進めている。

ーーYahoo Japanは(名前が出ている)最初の顧客な訳ですが、今後こうした顧客を増やしていくための方策は?

林田氏:日本では特にHPCマーケットに強みがあります。東京大学をはじめいくつもの大学で利用されています。コアの多さやメモリスループットの高さなどは、こうしたHPCマーケットで非常に有用とされているものですし。現時点では詳細はお話できないのですが、EPYCサーバベースのHPC向けシステムが進行中です。多分、2018年5月ころには、データセンター向けに関する新しいリリースを出すことが出来るのではと思っています。

ーーHPCではなくデータセンター?

HPCはもう少し時間がかかると思っている。また我々のパートナーであるHPEやDellはすでにEPYCサーバを出荷中で、現在エンドユーザーのところで評価が行われていることから、多分数か月後にはいくつかのユースケースが公表できることになると思っている。そういう段階なので、詳細についてはもうすこしお待ちいただきたい。

ただ一般論として、データセンターのマーケットは非常に小さいので、実はお互いに良く判っている。なにせデータセンター同士が繋がっているわけで、結果として、EPYCの性能などは当然他のデータセンターも知ることになる。こうした形でEPYCに対する評価が広まっていくのでは、と考えている。

同じことは大学にも言える。例えば、ある教授がEPYCを利用して評価を行うと、当然他の教授方もその情報を知ることとなる。しかもこうした方々は定期的に移動されているわけで、やはり同じように評価は広まっていくと考えている。多分、今後の半年から1年ほどで、良いニュースをお届けできると思っている。

日本はご存知のように、非常に技術志向だ。確かにコアの数やスレッドの数も重要だが、それ以上に128レーンのPCI Expressとか高いメモリバンド幅などが、評価して貰えている。今のところ頂いているフィードバックは非常に肯定的だ。これはOEMにとっては差別化要因になるし、エンドユーザーにとってはアプリケーションがCompute BoundでもMemory BoundでもI/O Boundでも、すべてに対応できるということになる。AMDはTCOを削減できるソリューションと高い性能を提供するソリューションの両方を(1プラットフォームで)提供できる。こうした特長が日本においては大きな普及への原動力になると考えている。日本のエンジニアは、こうした事を大変よく理解してくれている。