インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)などの英国研究チームは、光が相互作用して物質化する「ブライト-ホイーラー過程」と呼ばれる現象を実証するための実験を開始すると発表した。

ブライト-ホイーラー過程は、1934年に物理学者グレゴリー・ブライトとジョン・ホイーラーによって予想された物理現象であり、2個の光子が高エネルギーで衝突することによって物質粒子である電子と陽電子が1個ずつ生成される。

  • ブライト-ホイーラー過程を検証するための実験装置

    ブライト-ホイーラー過程を検証するための実験装置。高エネルギーのレーザービーム2本を衝突させて光子から電子と陽電子を生成させる (出所:ICL)

光子の衝突エネルギーを極めて高くする必要があるために、これまでは、ブライト-ホイーラー過程を実験的に確かめることは不可能であると考えられてきた。しかし、2014年になってから、核融合の研究で使われている高出力レーザーを利用することによって既存の技術でも実験を実現できるというアイデアが提案された。今回の研究は、このアイデアにもとづいて実際の実験装置を組み上げて、ブライト-ホイーラー過程の実証を目指して行われたもの。

2014年に提案された実験方法では、まず第1段階として、超高強度のレーザーを用いて、電子を光速近くまで加速する。すると、この電子を金平板に衝突させることによって可視光の10億倍という高エネルギーの光子ビームを生成する。

第2段階では、金の微小空洞の内部表面に高エネルギーのレーザーを照射して、熱放射場を発生させる。この熱放射場からは恒星が光を発するのと同じように光が放射される。

次に、第1段階の高エネルギー光子ビームを、第2段階の金空洞の中心部に向けて打ち込む。すると2つの光源からの光子同士が衝突するが、このときの衝突エネルギーはブライト-ホイーラー過程によって電子と陽電子が生成されるために必要なエネルギーレベルに達すると考えられている。実験では、このとき生成される電子と陽電子の検出を行う。

今回実際に使用される実験装置では、2本の高出力レーザービームを使って光子同士を衝突させる。一方のレーザーの出力は可視光の約10億倍、もう一方は可視光の約1000倍のエネルギーとする。このビームをチャンバ内の2個のターゲットに集束させる。チャンバは、レーザービームを集束するための複雑な光学系と、荷電粒子を逸らすための磁石を備えている。

  • 実験用チャンバの光学系

    実験用チャンバの光学系 (出所:ICL)

ブライト-ホイーラー過程が起これば、チャンバから陽電子が出てくるはずなのでそれを検出する。陽電子が実際に検出された場合には、それが他のバックグラウンド由来のものでなく本当にブライト-ホイーラー過程によるものだったかどうか、データを慎重に分析していくことになる。

アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量mの物質をすべてエネルギーに変換するとE=mc2という方程式にしたがって莫大なエネルギーが得られる(cは光速)。この式を等式変形するとm=E/c2となるので、エネルギーEからはE/c2という質量をもった物質が得られることになる。これがブライト-ホイーラー過程で生成される電子と陽電子の質量に相当すると考えられる。

研究リーダーのStuart Mangles博士は「この実証に成功した場合、宇宙誕生後の最初の100秒間で起こったプロセス、また宇宙物理学上の大きな謎であるガンマ線バーストなどを再現したことになる」とコメントしている。