桜には遅いが、横浜公園のチューリップが美しい4月18日から4月20日の3日間、横浜の情報文化センターで「COOL Chips 21」が開催される。主に情報処理関係の半導体チップに関して、回路設計からアーキテクチャ、ソフトウェアなどの招待講演と論文発表が行われる国際学会で、シリコンバレーで開催される「Hot Chips」の姉妹学会と位置付けられている。
今年のCOOL Chipsは、ディープラーニングとその低電力化にフォーカスされたプログラムという印象である。
初日はチュートリアルともいうべき、2人の講師による、それぞれ1.5時間という長い講義(と言っても大学の講義と同程度)である。今年は、シンガポール大のMassimo Alioto教授の「Energy-Scalable Processing - Meeting the Varied Needs of the Internet of Things at Its Edge」と題する講義と、Duke大のYiran Chen教授の「High-Power-Efficiency Implementation of Neuromorphic Computing Systems with Memristors」と題する講義である。Alioto氏の講義は、タイトルは地味であるが、電池による動作などを考えると、IoTチップの省電力は非常に重要であり、関係者は聞いておくべき講義であると思われる。
一方のYiran Chen氏の講義は、Memristorを使った電力効率の高いニューロチップの話で、現在のGPUなどに比べてエネルギー効率の高いニューラルネットが実現できる可能性がある。
今年は、最初の基調講演は初日に行われ、Googleの佐藤一憲氏がGoogle TPUについて発表する。しかし、事前に公表されたアブストラクトは短く、どのような情報が発表されるのかはほとんど書かれていない。
2番目の基調講演では、AMDのEpycが発表される。発表者は、AMDのJay Fleischman氏である。8コアのZeppelinチップを最大4チップ搭載するMCMパッケージを使うという技術でチップを小さくしてコストを下げ、I/Oピンを増やしてメモリやI/Oバンド幅を高めている。このアプローチで、どこまでIntelを超えた製品ができたのか興味深い講演である。また、COOL Chips出席者から厳しい質問が出され、新しい情報が明らかになったりすれば面白いところである。
3番目の基調講演では、IBMのPritish Narayanan氏の「Designing Deep Neural Network Accelerators with Analog Memory - A Device and Circuit Perspective」という講演が行われる。不揮発性メモリ(NVM)のクロスバアレイを使用した非ノイマン型のシステムで、データ伝送エネルギーを減らしている。回路的には、理想的ではない特性のNVMを利用して「コンピュータサイエンス的には同等」の計算精度を達成するための最新の研究内容が講演される予定であり、注目される技術である。
4番目となるミュンヘン工科大学のMartin Schulz教授の「Designing a Power and Energy Stack for Exascale Systems」と題する基調講演では、エクサスケールのシステムで電力とエネルギーを最適化するソフトウェアスタックについての講演が行われる。
4月20日の最初の基調講演では、MaxelerのOskar Mencer CEOが「AI Chips for all Future AI Algorithm」という講演を行う。データフロー型で将来のAI計算のアルゴリズムが変わっても対応できるチップを開発しているという。
また、XilinxのEphrem Wu氏は「Unlocking Hidden Performance: Examples from FPGA Base Neural Network」と題して、FPGAでニューラルネットを構成する場合の最適化の方法について述べる。
そして、4月19日の最後のセッションでは、ムーアの法則の終焉にどう対応していくかについて、NECの荒木拓也氏、富士通の丸山拓巳氏、日立の大島俊氏とミュンヘン工科大のMartin Schulz教授によるパネルディスカッションが行われる。モデレータは九州大学の井上弘士教授である。
さらに、合計11件の論文発表が行われる。一番最後のSiFiveのYunsup Lee氏の発表は招待論文で、カリフォルニア大学バークレイ校で開発されたオープンアーキテクチャのRISC-Vの論文が発表される。また、ポスター発表が行われ、優秀ポスターの表彰も行われる。
COOL Chipsは日本で開催されるコンピュータアーキテクチャ関係の国際学会で、発表はすべて英語で行われる。海外での学会参加の練習用として参加されても良いのではないかと思う。どうせなら、参加者の多い欧米の学会で発表したいという人が多く、COOL Chipsの発表論文数がなかなか増えないのが悩ましいところであるが、基調講演の講師は良い人を集めており、今回のCOOL Chipsの一連の基調講演を聞けば、AIチップ開発の最前線に触れることができると思われる。