東京大学(東大)と大日本印刷(DNP)は、独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術で、16×24個のマイクロ発光ダイオードと伸縮性配線をゴムシートに実装した薄型かつで伸縮自在なスキンディスプレイの開発に成功したことを発表した。

同成果は、東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫 教授、大日本印刷 研究開発センター 部長の前田博己 博士らによるもの。詳細は2018年2月17日(米国時間)に開催された米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science:AAAS)年次大会で発表された。

  • 今回開発されたスキンディスプレイの説明を行う東大の染谷教授

    今回開発されたスキンディスプレイの説明を行う東大の染谷教授。手に持っているのが、スキンディスプレイ

今回開発されたスキンディスプレイは、独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術によって、マイクロLEDのような硬い電子部品と伸縮性のある配線が混載したゴムシートを伸ばしても、電子部品とシートの接点に応力が集中しないように最適化を実施。これにより、伸縮率45%で、伸び縮みさせても、壊れずに表示を行うことを可能とした。

開発されたディスプレイのゴムシートの厚みは1mmで、その上に1mm×0.5mmの赤色マイクロLED(発光ピーク波長630nm)を16×24個(合計384個)配置している。これによって表示可能な解像度は伸長時で4.0mm、実効表示面積は64mm×96mm、収縮時で解像度が2.4mm、実行表示面積が38mm×58mmを実現した(駆動電圧2V、パッシブマトリクス方式、表示速度60Hz、最大消費電力13.8mW)。

  • 今回開発されたスキンディスプレイの概要

    今回開発されたスキンディスプレイの概要 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

その作り方は、これまでの染谷教授らの研究の流れを汲んだもので、あらかじめ伸ばしたゴム(基板)の上にマイクロLEDと伸縮性導体を搭載した2μmの高分子フィルムを貼り合せ、伸ばした状態から開放することでできる。これにより、「30%ほどの引っ張り状態であっても、抵抗値の変化は1万回の繰り返し引っ張り試験を経ても、ほとんどないことが確認された」(染谷教授)とする。

  • スキンディスプレイの作製方法

    スキンディスプレイの作製方法 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

  • スキンディスプレイを30%伸ばした状態の繰り返し試験結果

    。従来法では、1000回にも満たない内に破断してしまっていたが、今回の手法では1万回ほどの繰り返し試験でも、破断せずに使用が可能であることが示された (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

  • これまでの染谷教授の研究成果の変遷

    これまでの染谷教授の研究成果の変遷 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

今回の研究では、さらにこれまでの研究で生み出されたナノメッシュセンサを人間の胸部に貼り付け、心電波形を計測し、それをモニタリングした情報などをスキンディスプレイで表示することにも成功。これにより、自宅で心電波形データを安全かつ快適にモニタリングし、そのデータをクラウドに保存し、患者に直感的かつ自然な形の表示データとして提供しつつ、離れた場所に居るホームドクターなどにも情報を逐次提供することが可能になるという。

  • ナノメッシュ電極を用いた心電波形計測の様子

    ナノメッシュ電極を用いた心電波形計測の様子 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

  • ナノメッシュ電極を用いたスキンセンサとスキンディスプレイが実現する医療ソリューションのイメージ

    ナノメッシュ電極を用いたスキンセンサとスキンディスプレイが実現する医療ソリューションのイメージ (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

なお、今回開発されたスキンディスプレイシステムはあくまで研究用途のプロトタイプであり、無線モジュールやドライバIC、バッテリなどは別途構築する必要がある。そのため今後、3年以内をめどに実用化したいと大日本印刷では説明しているが、そのためには上記のような課題を含めた以下の3つの課題を解決する必要があるとしている。

  1. 信頼性向上
  2. 高集積化
  3. 大面積化

信頼性向上については、電極そのものが伸び縮みしても断線しないという技術をさらに進歩させていく必要があるとのこと。また、高集積化としては、上記のようなマイクロLED以外の半導体デバイスも搭載していく必要があるとする。目標は有機半導体デバイスでそれらのロジックを構築することだが、3年以内の実用化を考えた場合、まずは既存の従来型のシリコンを用いた半導体やシートリチウムイオンバッテリを集積する方向でシステム開発を進める予定だという。そして大面積化についてだが、ロールツーロールによる大量生産でのコスト削減と、表示面積の大画面化の両方の面で必要になる技術だとする。今回は研究ということで赤色のみの表示であったが、RGB3色揃った形での表示なども可能であり、ヒトに貼り付けるのに最適な大きさを模索していきたいとしていた。

  • 大日本印刷 研究開発センター部長の前田博己 博士
  • 大日本印刷 研究開発センター部長の前田博己 博士
  • 大日本印刷 研究開発センター部長の前田博己 博士。手につけているのが開発されたスキンディスプレイ

実用化された際の価格については、それほど高額なものにはならないが、デバイスを活用するであろう医療機関などのパートナーと慎重に議論をしていきたいとしていた。

  • 開発されたスキンディスプレイ
  • 開発されたスキンディスプレイ
  • 開発されたスキンディスプレイ。今回のものは、あくまで研究試作品であり、今後、実用品に向けたブラッシュアップなどが図られていくことになる