東京工業大学(東工大)は2月12日、コイン電池1つで15年程度の動作が可能な世界最小クラスの低消費電力Bluetooth Low Energy(BLE)無線チップを開発したと発表した。
同成果は、同大 工学院電気電子系の岡田健一 准教授らによるもの。詳細は、米国にて2月11日より開催されている最先端半導体チップの研究開発成果に関する国際会議「2018 IEEE international Solid-State Circuits Conference(ISSCC 2018)」にて2つのセッションに分けて発表される。
スマートフォン(スマホ)の普及に伴い、無線技術の1つであるBLEの活用も進んできたほか、Bluetooth meshの登場で、IoTでの活用にも期待が高まっている。しかし、従来のBluetoothに比べてBLEは低消費電力化が進んだと言っても、その消費電力はほかのIoT向け低消費電力無線技術に比べては高く、IoTでの活用を促進するためには、さらなる低消費電力化が求められていた。
そこで今回、研究グループは新たなデジタル制御遅延回路(デジタル時間変換器:DTC)を開発。それを用いて、低ジッタかつ広帯域な特性を実現した低消費電力デジタルPLL回路の開発に成功したほか、そのPLLを用いることで、低消費電力のBLEチップの開発にも成功したという。
DTCの基本的な考え方は、電流源から入力信号が入ってくると、キャパシタ(1pF)に電荷が蓄えられ、インバータのしきい値電圧を越えると、01判定が実施されるというものであったが、プリチャージに時間と電力が必要であった。今回、考案された新たな回路では、0.1pFのキャパシタを新たに追加。最初のプリチャージをこちら側で処理させることで、チャージのための電力の削減と時間の短縮を実現したという。
そこで、このDTCをデジタルPLLに適用。65nm CMOSプロセスを用いて試作を行った結果、低消費電力(0.98mW。低消費電力モードでは0.65mW)かつ発振回路の性能を比較するための指標であるFoM(Figure of Merit)で高い性能(-246dB)であることが確認されたという。
この結果を受けて、さらにBLE無線チップの開発にも着手。従来は、受信機としてA/D変換器(ADC)を2つ必要とするなど、回路ブロックが多く、その結果、消費電力も高かったが、デジタルPLLにキャリア再生機能を搭載することで、これを1系統に集約。さらに、ADCの機能もデジタルPLLに代替させることで、消費電力は従来の2.9mWから1.9mWへと低減させることに成功。ほかの周辺回路と併せても、送信で2.9mW,受信で2.3mWの消費電力で動作が可能であることを確認したとする。
実際に65nmプロセスで試作されたBLEチップは、2.26mm×1.90mmと小さく、Bluetooth 4.2(BLE)規格にも準拠したものとなっており、この消費電力から計算すると、コイン電池1個で、1秒インターバルで通信した場合で30年、実効値としては15年程度の動作が可能であるという結果に至ったという。
なお、岡田准教授によると、今回考案した新型デジタルPLLは、広範なIoT機器への組み込みが可能であり、さまざまなアプリケーションでの電池交換の不要化を促進することとなるほか、要素的回路であることから、無線以外の回路用途での活用も期待できるとしている。