理化学研究所(理研)は、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を利用し、過冷却状態にある水の構造を捉えることに成功したと発表した。今回の成果により、水に固有の熱力学的な挙動の起源が解明された。
同成果は、理研放射光科学総合研究センター ビームライン開発チームの片山哲夫客員研究員(高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室研究員)、ストックホルム大学のキョンホァン・キム研究員、アンダース・ニルソン教授らの国際共同研究グループらの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Science」に掲載された。
水は生命に不可欠な液体だが、その挙動に関する理解は不完全だ。例えば、温度を下げていくときの密度、熱容量、等温圧縮率といった熱力学的な特性の変化は、水と他の液体とでは逆の挙動を示す。
そのため、水の熱力学的な特性については長年議論されており、いくつかの仮説が提唱されていた。そのうちの1つが、水には密度の異なる2つの相があり、その間を揺らいでいるという仮説だ。しかし、温度を0℃未満に下げた水(過冷却状態)は不安定ですぐに凍ってしまうため、この仮説の検証を行うことはこれまで困難だった。
研究グループは、直径14μmの小さな水滴が真空中で冷却されて氷になる前の過冷却状態を、X線自由電子レーザーで捉えることに成功した。XFELはフェムト秒のパルス幅を持つため、刻々と状態が変化する水の一瞬を切り出して計測することができる。また、水の温度は、水滴を作り出すインジェクターとXFELが照射される領域との距離を変えることで制御できる。
次に、水滴から散乱されたX線を検出して構造解析することで、水の奇妙な振る舞い(冷却時の等温圧縮率の上昇)の温度依存性を調べた。その結果、等温圧縮率は-44℃で最大となり、それ以下の温度では反転することを発見した。
また、水に含まれる水素原子を重水素原子に置換した重水では、この温度が-40℃になることも確かめた。これらの発見は水に「液-液相転移」が存在し、その相転移が原子核の量子効に影響されることを示すものだという。
なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後、圧力と温度をパラメータとした相図のどこに液-液相転移の臨界点があるのかが焦点となるとコメントしている。