レース期限延長の可能性はあるか
となると、現実的に考えられるのは、GLXPの期限の延長だ。袴田代表も、さまざまな方策の1つとして、期限の延長を求める考えを示していたが、見通しはやや不透明だ。
GLXPは、これまでもすでに4回、期限を延長している(2014年末→2015年末→2016年末→2017年末→2018年3月末)。このことから、「もう1回延長するくらい簡単だろう」と思うかもしれないが、GLXPは昨年、開始からちょうど10年を迎えた。10年を区切りとして、ここで終了する可能性は決して小さくない。
昨年11月、筆者の「期限までにミッションが達成されなかった場合、再度延長する可能性はあるか?」という質問に対し、GLXPプライズリードのChanda Gonzales-Mowrer氏は、「No, this is the final」と明言している。これを覆すには、それだけの大きな働きかけが必要になるだろう。
主催者側が延長を受け入れるかどうか。それは、あと1回延長すれば、打ち上げを実行できるチームが出てくるか、という点にかかっているかもしれない。
HAKUTO/TeamIndus以外に打ち上げ日を発表しているチームはなく、期限が3月末のままでは、おそらく打ち上げ段階に辿り着けるチームはない。では、仮に2018年末まで延長されたとして、事態は変わるのか。ファイナリスト5チームのうち、HAKUTO/TeamIndus以外の3チームの状況はどうだろう。
最も有力視されるのは米国のMoon Expressだ。同チームが開発しているランダー「MX-1E」は、ローバーを搭載せず、エンジンを噴射してランダー自身で月面を移動する仕組み。GLXPの中間賞では、2部門(着陸、撮影)で受賞しており、技術力は高い。
ランダーの現在の開発状況については不明だが、同チームの懸念材料はロケットだ。打ち上げに使うのは、宇宙ベンチャーのRocket Labが開発中のElectronロケット。まだ試験1号機「It's a Test」を打ち上げたことしかなく、年末までに間に合うかどうか微妙なところだ。ただ、1号機も惜しいところまで行ったので、開発が順調なら可能性はある。
ダークホースと言えるのがイスラエルのSpaceIL。こちらもランダー自体で移動する方式なので、開発リソースをランダーに集中できるという強みがある。ロケットはSpaceXのFalcon 9なので実績はあるが、同チームも、昨年末の段階で2,000万ドルの資金不足を明らかにしている。開発も遅れ気味の模様だ。
残るSynergy Moonは、ほとんど公開情報が無いため、状況がまったく分からない。ロケットは、宇宙ベンチャーのInterorbital Systemsが開発中のNeptune 8(N8)を使うとのことだが、Neptuneシリーズはまだ1回も打ち上げられていない。3チームの中では、最も可能性が低いと見て良いだろう。
延長が認められなかったとしても…
そういった状況を見ると、やはり現時点では、HAKUTO/TeamIndusが最も有力なチームであるとは思う。袴田代表が引き続きTeamIndusと組み、月面を目指すと表明したのは、今はそれが最も現実的な選択肢であるからだろう。
ちなみに最有力チームであり、かつての相乗り先だったAstroboticは、自社の月面輸送サービスに注力するため、GLXPから撤退した。同チームはランダー「Peregrine」を開発中で、HAKUTOのローバーを搭載することも可能と思われるが、打ち上げは当初の計画より遅れ、現在は2020年前半を予定しているとのこと。タイミングとしては合わない。
それに、HAKUTOを運営するispaceは先日、独自の月探査計画を発表しており、最初のミッションは2019年末に実施することを目指している。これが大幅に遅れるようなことでも無ければ、Astroboticに乗り換える積極的な理由は見当たらない。ただ、いずれにしても、年内に間に合わないのは確実だ。
今後、TeamIndusではミッションの実現が不可能、という状況にでもならない限り、このままTeamIndusと組み、SORATOの打ち上げを目指すことになる可能性が一番高そうだ。あとは、主催者が延長の要望を受け入れるかどうか、判断を待つしか無い。
しかし、ispaceが100億円もの資金調達に成功し、独自の月探査計画を行うというのは、GLXPの開始当時にはとても考えられないことだった。賞金を呼び水にして、民間による月面探査を加速するというGLXPの当初の目的は、たとえ成功者無しに終わったとしても、すでに果たされていると言えるかもしれない。