京都大学は、液体の中でも動作する原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、結晶試料の表面で水分子がどのように分布しているのか可視化することに成功したことに加え、結晶の帯電によってその分布が異なることを発見したことを発表した。
この成果は同大工学研究科の山田啓文教授、小林圭同准教授、梅田健一氏、Adam Foster フィンランド・Aalto大学教授らの研究グループによるもので、12月13日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
液体と固体が接する固液界面は、結晶成長や触媒反応といった現象が生起する特徴的な場所であり、生物の体内でも分子の特異結合・吸着といった種々の生化学過程を引き起こす場として極めて重要な役割を担っている。例えば、電池の電極反応は、固体の電極と液体の電解質が接する界面である固液電極界面に形成される電気二重層内で進む。また、生体適合性材料の表面にタンパク質がどのように吸着し影響を受けるかは、材料とタンパク質の界面に形成される水和殻/水和構造に強く関連している。
このように、極めて広範な研究分野において、固体-液体界面での帯電状態と水和構造やイオン吸着との関係を理解することが、表面化学反応や生体機能発現の分子レベル的理解へと直接つながると考えられているが、これまでの実験・理論のどちらの面においても、依然十分な理解は得られていなかった。
今回、研究グループは、クリノクロアと呼ばれる層状ケイ酸塩鉱物結晶の一種と水溶液との境界に着目しdた。この結晶は、正電荷をもつ酸素八面体層と、負電荷をもつケイ酸塩四面体層が交互に積層した特徴的な構造をもつため、異なる電荷を持つ表面における水分子の分布の違いを可視化するのに適したモデル試料である。この研究では、原子間力顕微鏡(AFM)による3次元フォースマップ法を用い、クリノクロア表面の水和構造可視化に成功した。
この研究により、界面の水和構造とそれと同時にはたらく電気二重層力を分子レベルで可視化する新たな手法が確立された。今後、固液界面における物理・化学現象を利用したデバイスの開発や、生体分子 の機能解明を理論的、実験的に進めていく上で、強固な基盤が確立したと、研究グループは説明している。