IBMは、同社の商用量子コンピュータシステム「IBM Q」に2つの大きな進展があったと発表した。ひとつは、20量子ビットシステムによるクラウドサービス提供の準備が整ったこと、もうひとつは50量子ビットシステムのプロトタイプの動作実証に成功したことである。

50量子ビットのIBM Qシステムと接続された低温保持装置(出所:IBM)

IBMは2016年5月、5量子ビットの量子コンピュータを公開し、クラウド経由で誰でもこれにアクセスできるようにして、実際に量子コンピュータによる計算を実行できるサービスを開始した。2017年3月にはビジネスおよびサイエンス向けの初の商用量子コンピューティングシステムであるIBM Qを立ち上げ、5月には量子ビット数を16ビットおよび17ビットに増強した量子プロセッサも発表していた。

今回のアップグレードでは、IBM Qの量子プロセッサを20量子ビットに増強した。超伝導量子ビットの設計改良、接続性、パッケージングの改善などを行った結果であるとする。これにより、量子コンピュータによる計算を実行可能な時間の長さを決める「コヒーレンス時間」は平均90マイクロ秒となった。20量子ビットのシステムは、2017年末までにクラウド上でのサービス提供を開始する予定であるという。

IBMが開発している量子ゲート型の量子コンピュータでは、1量子ビットに0/1の値が同時に重ね合わせられた量子力学的状態をつくって並列計算を行う。量子重ね合わせ状態が消失するまでの時間の長さがコヒーレンス時間であり、これが長いほうがより多くの計算を実行できる。

もうひとつの重要な成果は、20量子ビットシステムのアーキテクチャを拡張して、動作可能な50量子ビットの量子コンピュータのプロトタイプ構築に成功したことである。量子ビット数については、量子コンピュータが従来型コンピュータの性能を凌駕する能力を発揮するには少なくとも50量子ビット程度のシステムが必要であると考えられており、量子コンピュータに期待されている本来の計算能力の実現に一歩近づいたことになる。