理化学研究所(理研)などは10月7日、磁性層と非磁性層を交互に積み重ねたトポロジカル絶縁体積層薄膜を開発し、磁気抵抗比1000万%を超える巨大な磁気抵抗効果を発見したと発表した。

同成果は、理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループ 茂木将孝研修生、十倉好紀グループディレクター、強相関界面研究グループ 川﨑雅司グループディレクター、強相関量子伝導研究チーム 川村稔専任研究員、東北大学金属材料研究所 塚﨑敦教授らの研究グループによるもので、10月6日付の米国科学誌「Science Advances」に掲載された。

トポロジカル絶縁体とは、物質中の電子状態のトポロジーを反映して、中身は電気を通さない絶縁体であるが、表面では電気を通す金属となる物質。近年、磁性元素を添加したトポロジカル絶縁体で生じる量子異常ホール効果が注目を集めている。

今回、同研究グループが開発したトポロジカル絶縁体 (Bi1-ySby)2Te3薄膜は、薄膜の上部にV(バナジウム)、下部にCr(クロム)を選択的に添加することにより、磁性/非磁性/磁性の三層構造をとっている。この2つの磁性層の保磁力の差を利用することで、互いの磁化方向を外部磁場によって平行、反平行と変化させることができる。

今回の研究では、互いの磁化方向を平行から反平行に変化させることで、電気抵抗値が約20kΩ~2GΩまで変化する巨大な磁気抵抗効果を観測することに成功した。

この高抵抗状態は、量子異常ホール効果の端電流をほとんど流さない状態を意味し、非散逸電流をトポロジー変化によって開閉するスイッチング原理を確立したものといえる。また、アクシオン絶縁体と呼ばれる量子化された電気磁気効果の発現が理論的に予測される状態にも相当するという。

今回の成果について同研究グループは、今後の電気磁気効果の測定に向けた研究に大きな進展が期待できると説明している。

A:トポロジカル絶縁体薄膜(白)と磁性トポロジカル絶縁体(ピンクと緑)の積層構造 B:作製した薄膜を測定用にデバイス加工した試料の光学顕微鏡写真 C:ホール伝導度が±e2/hのときが量子異常ホール状態、0のときが絶縁体の状態を表す D:電流端子間で二端子抵抗を測定すると、量子異常ホール状態から絶縁体の状態に変わるとき(約0.2T~約0.7T、約-0.2T~約-0.7T)に、抵抗値が20kΩから2GΩへと非常に大きく変化する (画像提供:理化学研究所)