産業技術総合研究所(以下、産総研)データフォトニクスプロジェクトユニットは、ダイナミック光パスネットワークと呼ばれる新しいネットワーク技術の開発を進め、そのテストベッドを東京都内に構築し実運用を開始したと発表した。
ダイナミック光パスネットワークは、任意のユーザー間を光回線(光パス)でつなぐ回線交換型の光ネットワーク。現在、インターネットの通信量は年30~40%の割合で増え続けている。電子ルーターはデータ量に比例して消費電力が増大するため、今後、高精細映像などの巨大データ処理の需要が増加すると消費電力が激増し、通信量上昇のボトルネックになると予想されている。また、インターネットは、現在、帯域の保証が無く、遅延の発生や変動が避けられない。遠隔共存の実現に向けて、これらの問題点を解決し巨大な超高精細映像情報を効率良く快適に扱える新しいネットワークが望まれているという。
そこで、産総研はルーターを介さず光スイッチを使用した回線交換と、これをユーザーが快適に活用できる資源管理という技術を組み合わせた 「ダイナミック光パスネットワーク」を提案。同ネットワークは、ユーザーの要求に基づいて光パスを動的に設定する資源管理システムと光パスの切り替えを行う光ノードで構成される。光ノードでは、シリコンフォトニクスによる偏光無依存型8入力8出力の光スイッチを用いているが、その消費電力は10Wで、同等の電子ルーターの消費電力4kWの1/400に削減されている。8ポートというごく小規模なテストベットでもこのような差があるが、数十万ユーザーの大規模システムではこの差がさらに広がるため、非常に高い省エネ効果が期待できる。
今回は、その実現に向け、10年間の研究成果を実用化、普及させるために東京都内にテストベッドを構築し運用を開始するということだ。開設されたテストベッドは、4つのユーザー基地局が光ノードと接続されるスター型の構成で、2つの基地局は産総研臨海副都心センターに置かれ、他の基地局は東京大学と、8K技術の医療推進を図るメディカル・イメージング・コンソーシアム(カイロス社内)に置かれる。さらに2つの病院を接続する拡張作業も行っている。光ノードは大手キャリア基地局に設置されており、光スイッチや光増幅器、中間制御装置で構成され、これらは全て1U標準ブレードに収納され、19インチ標準ラックにマウントされている。
また、今回構築したテストベッドでは8K映像を非圧縮伝送して遠隔共存を実現できるが、今回は既に普及が進んでいる4K映像機器を用いて非圧縮伝送によるテレセッションシステムを構築。一般に、システムの伝送による遅延が往復200ms(msは1/1000秒)以下であれば自然な会話ができ、60ms以下になると遠隔合奏が可能になる。今回のシステムは、安価な家庭用AV機器を使用しているため、遅延が往復80ms程度であるが、自然な会話を楽しむことができるという。
同プロジェクトユニットは今年度、大学や企業に今回構築したテストベッドをモニター利用してもらい、遠隔共存の効果的な実施形態について調査を進め、その一環として、8K映像の非圧縮伝送による遠隔医療に取り組む。また、来年度以降は、一般ユーザーがテストベッドを有償で利用できる体制を構築するとともに、企業による事業化を行い、ダイナミック光パスネットワークの普及に努めていくという。なお、この技術の詳細は、国内外の学会などのほか、10月3~6日に開催されるCEATECで技術展示されるということだ。