千葉大学は、働きアリがパートナーであるアブラムシ種がどれなのか、「口移し」による栄養交換行動の際に仲間のアリに伝えていることを明らかにしたと発表した。
同研究は、日本学術振興会(元千葉大学園芸学部、現在琉球大学農学部所属)の林正幸特別研究員、関西学院大学理工学部の北條賢准教授、千葉大学園芸学部の野村昌史准教授、琉球大学農学部の辻瑞樹教授の研究チームによるもので、同研究成果は、日本時間8月30日に、英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」にオンライン掲載された。
アリとアブラムシの関係は、異なる生物同士がお互いに利益を与え合う「相利共生」のモデルケースとして研究されてきた。アリは栄養豊富な甘露を受け取るかわりにアブラムシを保護し、その天敵を排除する。多くの場合、パートナー種は頻繁に入れ替わり、アリと共生関係を結ばないアブラムシ種も多く存在する。したがって、アリは現在パートナーであるアブラムシを正確に認識、識別する必要があると考えられるが、アリがどうやってアブラムシを認識しているのかはほとんどわかっていなかった。
これまでに同研究チームは、アブラムシから甘露を貰った経験のあるアリは、アブラムシに対する攻撃性を著しく低下させることを明らかにしている。この結果は、アリがアブラムシを学習することを示唆しているが、アリはアブラムシと家族単位で共生関係をむすぶため、「自己学習」だけではアリ個体全員がそれぞれ学習する機会が必要となり、共生構築に多大な時間を要することになってしまう。そのため、アリが家族の他個体にアブラムシの情報を伝える何らかのシステムを持っているのではないかと考えたという。
そこで、マメアブラムシ経験のあるアリとシャーレ内で同居させたアリのアブラムシに対する攻撃性を測った結果、直接のアブラムシ経験が無いにも関わらず、アブラムシに対する攻撃性を顕著に減少させた。これは、アブラムシの情報が未経験アリへと伝達されたことを示している。次に、情報伝達がどのように生じているのかを明らかにするため、アリの口移し行動に着目した。口移しは、そ嚢に蓄えた液状の餌を吐き戻し仲間に分け与える行動で、アリやハチなどの社会性昆虫で広くみられる習性となっている。アブラムシ経験アリから未経験アリへの口移しを阻害したところ、未経験アリのアブラムシに対する攻撃性が顕著に増加した。このことから、働きアリ間の口移しの際にアブラムシの情報が伝達されることが判明したという。
自身の経験を伴わずとも,他個体の観察や情報伝達をもとに個体が行動を変化させる社会的学習は、主に大きな脳を持ち高度な社会生活を営む高等動物でみられる現象と従来は考えられてきた。しかし、小さな昆虫までもが他個体の得た情報をもとに意思決定をする仕組みをもつことが徐々にわかってきたということだ。