ニューメキシコ大学などの天文学者チームは、2つの超大質量ブラックホールがお互いのまわりを周回する軌道運動を観測することに初めて成功したと発表した。アメリカ全土に配置された超長基線アレイ(VLBA:Very Long Baseline Array)を使って観測した。研究論文は、天文学誌「Astrophysical Journal」に掲載された。
VLBAは、全米各地にある10台の電波望遠鏡(パラボラアンテナ)を連携させ、ひとつの大規模電波望遠鏡として運用するシステム。ニューメキシコ州ソコロのオペレーションセンターですべてのパラボラアンテナを遠隔操作している。
このシステムを用いて、地球から7億5000万光年の距離にある銀河「0402+379」と、その内部に存在すると考えられている超大質量のブラックホール連星系の観測を行った。今回VLBAで新たに捉えた複数の周波数の電波(5、8、15、22GHz)のデータを、12年間にわたるこれまでのVLBA観測データと組み合わせることで、ブラックホール連星系の動きの推定を試みた。
その結果、連星系を構成するブラックホールの質量は2つ合わせて太陽の150億倍という超巨大なものであり、お互いのまわりをおよそ3万年周期で周回する軌道運動がみられると結論した。
今回のブラックホール連星系は、7億5000万光年という遠方の宇宙で3万年周期というゆっくりとした軌道を描いているため、12年かけても観測しても軌道の湾曲は極めてわずかな量しか検出できない。このようなわずかな変化を観測したVLBAの分解能について、研究チームの物理学者ロジャー・W・ロマーニ氏(スタンフォード大学)は次のように説明している。
「地球から4.243光年の距離にある恒星プロキシマ・ケンタウリを周回する地球型惑星の表面に1匹のカタツムリがいたとする。今回われわれが観測した角運動は、そのカタツムリが秒速1cmの速さで動くのを観測しているのに等しい」(ロマーニ氏)
銀河中心に存在する超大質量ブラックホールは、銀河の誕生やその進化について多くのことを教えてくれると研究チームは強調する。私たちの住んでいる天の川銀河と、隣にあるアンドロメダ銀河も、それぞれの中心に超大質量ブラックホールを持っていると考えられている。数十億年後には2つの銀河が衝突するとされており、そのときには今回研究チームが観測したようなブラックホール連星系が形成される可能性もある。