一発勝負に出たい気持ちをコントロール
そんなコンディションでも、サンディエゴと変わらず「同じように飛ぶ」と語っていた室屋選手。どういう心構えなのか問うと、「いつ聞かれても今年のレースプランなので同じ答えになるんですけど、まったく同じということではなく、大きく変化させずに少しずつ改良し、タイムを詰めていく。ここ一発、突っ込んでいけばタイムを上げられるところはたくさんあるけれど、一か八かの確率でパイロンヒットするようなことはやらないということですね。昨年の優勝のあと勝てなかったのは、ここ一発タイムを出したいとか、つい遊んでしまうような方向に突っ走って楽しんでしまった。それを制御して克服するというのが大きな目標です」という答えをいただいた。
ラウンド・オブ・14では、ノーペナルティながら55.590秒のフライトで結果としてペトル・コプシュタイン選手と0.007秒差の接戦を演じた室屋選手。
「もうちょっと速いかなと思ってたんですけどね、僅差じゃなくて0.3、4秒差のつもりで飛んでいたんですけど、風がちょっと違ってたのかも。結果としてはギリギリで、最初に無線で聞いたときわからなくてドキドキしましたよね。スクリーンが止まったんですよね? あ、0.00って出たんだ、ああそうか」と振り返る。
「もうちょっと速く」ギリギリの勝負で辛勝
接戦のコプシュタイン選手も敗者復活し、共に勝ち上がったラウンド・オブ・8で室屋選手は攻めのフライトに出た。
「マット(対戦相手のマット・ホール選手)のタイムを見て、ほんのちょっとペースを上げないと難しいかなと思ったんですね。風がゲート7へ押される方へ吹いてきて、そのぶん10mぐらいずれたのか思ったより近くなって、戻すのが間に合わなかった。あのままパイロンヒットがどうかというところだった」。この結果、室屋選手はゲート7までに機体を水平に戻せない「インコレクト・レベル」で2秒のペナルティを受けてしまうが、次に飛んだマット・ホール選手も2秒のペナルティを受けたため、差し引きゼロ。前回より0.6秒速い54.964秒でゴールした室屋選手が、55.295秒のホール選手を破った。
先が有利? 後が楽? 勝敗を分けたのは平常心とプレッシャー
そして進んだ決勝のファイナル4。サンディエゴに続いて最初に飛んだ室屋選手に対し、タイムで上回ったマティアス・ドルダラー選手とマルティン・ソンカ選手がペナルティを受け、室屋選手の優勝が決まった。後から飛ぶ選手にはプレッシャーが掛かるのだろうか。
「後から飛んだ方が有利だと思います。前のタイムを聞いているし、先に飛んだ人が3人ともパイロンヒットしてればペースを上げる必要もない。パイロンヒットしていればね。理論上はそうだけれど、精神的には何にもないところを飛んだ方がクリーンに飛べるというのは、今回とサンディエゴ戦を通じて、これもいいなと思っています。今回のファイナルぐらいのタイムでも充分にプレッシャーを掛けられていて、その中でペナルティが出た。自分があと1秒遅かったら、絶対ペナルティは出ていないと思いますね」。確かにファイナル4での室屋選手のタイムは55.288秒と、それまで54秒台を出してきたドルダラー選手やソンカ選手が破れないタイムではないし、実際に両選手ともファイナル4でも54秒台でゴールしている。しかし、そのタイムでないと勝てないプレッシャーが、室屋選手に勝利をもたらしたのだろう。
そしてブダペストへ - 年間チャンピオンへの途
第2戦のサンディエゴ、第3戦の千葉で連覇を果たした室屋選手は、年間の獲得ポイントを30とし、第1戦のアブダビで優勝したソンカ選手と同点のトップに立った。
「また2週間ぐらいすると次の場所へ行って同じことを最初からやります。まだ5戦ありますんでね、まだ半分も来ていない。これからヨーロッパ勢と比べるとちょっと苦しくなって来ますので、これからが勝負。日本戦が終わると終わったみたいになっちゃいますが、引き続き声援いただきたいなと思います」。今後は7月にブダペスト(ハンガリー)とカザン(ロシア)、9月にポルト(ポルトガル)とラウジッツ(ドイツ)と、ヨーロッパでの戦いが続く。そして最終戦はアメリカのインディアナポリス。初の年間王者へ向けて、ヨーロッパ勢との戦いが始まるこれからが室屋選手の正念場かもしれない。