6月3日から4日にかけて開催された「レッドブル・エアレース2017千葉大会」。3年連続開催となった同大会で、日本の室屋義秀選手が2年連続優勝、また前回開催地のサンディエゴに続いて2大会連続優勝という「ダブル連覇」を果たした。
前回はエアレース観戦初心者の筆者が、千葉大会の劇的なドラマを観戦したレポートをお送りした。今回は、優勝決定後の記者会見とその後の室屋選手インタビュー、そしてこれからのレッドブル・エアレースについてお伝えしよう。
地元で堂々表彰台へ!
3位となったマルティン・ソンカ選手(チェコ)は「表彰台に立てたのは嬉しいが、操縦桿を握っていた自分自身のミスで優勝を逃してしまった。ポイントでは室屋選手と並んでいるが、まだシーズンは始まったばかりで、自分をチャンピオンとは考えていない。まだまだ先は長いが、このポジションを保てるようがんばっていく」と語った。
また、2位のペトル・コプシュタイン選手(チェコ)は2017年からレッドブル・エアレースのマスタークラスに参戦した新人。初の表彰台に「チェコの先輩・ソンカ選手、そして室屋選手と一緒に立てたことを光栄に思っています」と語った。
そして優勝した室屋選手。「チーム、家族、スポンサー、レースのオーガナイザー、皆さんに感謝を申し上げたい。9万人のファンが来て下さることはプレッシャーでもあったが、その応援を追い風と取るかどうかは自分次第。後押ししてくれるととらえることでうまく作用したと思う」と、日本での2年連続優勝に感謝を述べた。そして年間チャンピオンへの抱負を聞かれると「これまで3戦、残り5戦でまだどうなるかはわからない。全部勝てるとは思わないが、ファイナル4にきちんと残っていけば自然にポイントは溜まるので、ポイントのことは考えずにコンスタントに良いレースをしていきたい」と、応援への感謝と今後のレースへの抱負を語った。
記者会見場に現れた室屋選手。左手にトロフィー、右手にはレッドブルの缶 (C)大貫剛 |
左からコプシュタイン選手、室屋選手、ソンカ選手。入賞しなくても地元選手は記者会見に招かれるが、室屋選手は文句なしの「真ん中」に自分で来た (C)大貫剛 |
「後で見たら、手に汗握る展開だった」 - 室屋選手が振り返った千葉大会
大会から2日経った6月6日。銀座のブライトリング・スタジオで室屋選手がインタビューに答えてくれた。ブライトリングも室屋選手を支援するスポンサーの1つだ。
競技中は自分のフライトをチェックするのに忙しく、勝敗は知っていても展開はわからないままだったという室屋選手。
「最終的に1位になって表彰されたけど、いまいち分かってないんです、実は。月曜の朝に放送を見返したら、おっ、これは手に汗握る凄い展開だなと思いました(笑)。今回はミラクルな展開がいっぱいあって、例えばラウンド・オブ・14は0.007秒差、ラウンド・オブ・8は自分のペナルティの後、マット・ホール選手もペナルティ。ファイナル4ではペナルティがなければ(マティアス・ドルダラー選手とマルティン・ソンカ選手が)タイムでは上回っていた。それが何で起きたのかはわからないけれど、自分の実力だけでなく運に勝たせてもらったという感じはしましたね」
千葉大会に間に合わなかった「ウィングレット」
「サンディエゴでは狙ったタイムでピシッと飛んで、予定通り引き離していく感じだったが、千葉ではそういう状態ではなかった。じゃあどうやって戦っていくか。今回みたいなスポッティングな(小さな)ターンが多くて、全体に速度が低くてGがかかるような場合だと、やっぱりウィングレット(主翼端に取り付けられる小さな翼)がある方がどうしてもちょっと速い」と室屋選手は語る。
主翼先端を後ろ向きに反らせた「レイクド・ウィングチップ」を備えた室屋機(左)と、上向きに反らせた「ウィングレット」を備えたコプシュタイン機。どちらも怪我防止のため、先端をテニスボールで保護している。ピトー管(速度センサ)保護のチキンラバーはご愛敬 |
ウィングレットは、最大10Gという急旋回のときに抵抗を減らす役割があるが、直線ではむしろ抵抗になる。室屋機はウィングレットが未装備で、直線での抵抗減に有利なレイクド・ウィング・チップを装着している。5月に福島で千葉大会への意気込みを聞いた際、ウィングレットについて「今開発中なので、千葉大会で取り付けられていなかったら、間に合わなかったのだと思ってください」とも語っていた。
戦っているのはパイロットだけではなく、機体の改良や整備をするチーム全体だ。そんな中で、パイロットは勝敗をチームのせいにすることはない。大会までに用意できた機体で最善を尽くすのがパイロットの仕事だ。