倉庫などで使われているRFIDをクリーニング事業で実用化しようとしているのが、店舗を持たないネットクリーニング「リネット」を展開するホワイトプラスだ。

RFIDタグ自体はすでに実用段階にあるが、クリーニングの現場で活用するには洗いの際の浸水やタンブラー乾燥による高温に耐える強度が必要となる。そのため、同社はクリーニングのためのRFIDトラッキングシステム「エスコートタグ」を、富士フイルムイメージングシステムズと共同開発した。

このRFIDタグは現在テスト段階にあり、現在ふとん専門のネットクリーニング「ふとんリネット」で利用中だという。今回は、クリーニング工場および倉庫内でそのテスト中の様子を見学し、RFIDの活用法や今後の展望を伺った。

ふとんクリーニングにRFIDを試験導入

これまでは顧客の洗濯物の管理は二次元バーコードによって行っていた。クリーニングから戻ってきた衣服は、品質表示タグにバーコードの印字された紙タグがホチキスで取り付けられているのを覚えている人も多いだろう。今回のテスト運用では、バーコード管理の部分を一部RFIDでの管理に置き換え、それによる作業の効率化などを測っている。

クリーニングに耐えうる性能を持つRFIDタグ。布のように曲げられ、高温や浸水に耐えられる

今回テスト運用が行われているのは、ふとんリネットの提携先であるクリーニング業者の倉庫および工場。倉庫内では着荷・出荷など各工程において、データ管理のために作業者が衣服に取り付けられたバーコードを積み重ねたふとんの山から目的の物を探し出し、さらに細い紙タグとスキャナを接触させる手間が発生する。

ふとんのような重たく大きな物では、こうした読み取り動作の負担は大きい。また、もし1点でも紛失トラブルがあれば、すべてのラインを停止して、従業員総出で紙タグを頼りにした捜索を行わなければならず、作業効率を著しく低下させていたという。

クリーニングする布団が倉庫に到着すると、タグを取り付ける

既存のバーコードタグは紙に印刷したもの。コストは安価だが、布団の隅につけた細いタグを都度引き出してリーダーに接触させる必要があるのがネック

今回のテスト運用では、既存のバーコードと共に、着荷時の検品前荷分けの段階で、RFIDタグをふとんに取り付けている。RFIDタグの固有IDと着荷したふとんを紐づけ、非接触リーダーによる位置の把握を可能とすることで、倉庫内での検索性を向上させている。

ピッキング作業を50%以上時短に成功

RFIDタグをふとんに取り付けた後、専用リーダーでふとんの情報との紐付けを行う。iPhoneを用いたデバイスで、作業者の方もスムーズに使えていた印象を受けた

テスト運用のために既存のバーコード管理を停止することは難しく、タグの取り付けについては2倍の工数がかかってしまっているが、RFIDタグ導入による生産性の向上は著しく、タグ取り付けの手間をおいても期待が持てる状況だという。実際、出荷する際のふとんのピッキング作業において、作業時間は50~60%短縮されている。

また、テスト運用はこうした従業員の手による実地利用のほか、タグの性能試験としての側面も持っている、とホワイトプラス 取締役兼CTOの森谷光雄氏は語る。熱や水などの環境への耐久性、紛失・破損などの発生率などを調査した結果、現状はトラブルは0件だったという。

大型のタンブラー式の他、圧力に弱い羽毛ふとんなどを洗う洗濯機も(左)。乾燥機がずらり(右)。RFIDタグはこうした工程に耐える必要がある

また、RFIDの通信はWi-Fiや鉄、水分の影響を受けるため、どの程度スペックを発揮可能か確認したところ、事前に想定していたような目減りはなく、「思ったよりも性能が発揮できた」(森谷氏)とのこと。UHF帯を利用しており、50cm四方の通信距離を想定していたが、1~1.5m四方でも通信できていたとのことで、将来的にリーダーを改良すれば、さらに2倍(約3m)程度に伸ばせるのでは、と期待する。

現在はRFIDタグを耐久性検証のため出荷時にタグを回収しているが、本番運用では顧客の許可を得た上でふとんに取り付けたまま出荷を行う想定だ。ふとんクリーニングのリピート率は高いため、2度目の着荷時にタグを介して前回データを参照することで、省力化や納期の短縮につながることを期待する。また、前回のデータを活用することで、1年おきに実施することを推奨するふとんクリーニングのリマインドを行えるため、顧客の利便および営業機会を増やすことも期待できるという。

RFIDタグを取り付けたことで、積み上げたふとんのどの位置に出荷すべき物があるか、リーダーをかざすことで把握できるようになった。これまでは、番号順に大まかに分けられた山の中から、ふとんについたバーコードタグを1枚ずつ確認して探し出していた

目下の課題はタグの価格だ。現在の単価では紙タグに比べて高価なため、費用対効果を出すことは難しい。利用範囲の拡大を行い、RFIDタグを大量生産可能にすることで、価格の問題を解消することを目指す。

今回のテスト運用は3月31日に完了し、次のフェーズでは短納期の衣類クリーニングでの利用に耐えうるか調査を行っていく。ふとんクリーニングでの運用も、今回得られた結果によって改善を行った工程で、βテストを進行する予定だ。

将来的には、クリーニング工程のトレースによって衣類発送後のプラン変更、受付品目の履歴を残すことで、前回ブラウスとして受付したものを次にワンピースと判断するなどのぶれをなくしてサービスの公平性を高めるなど、顧客が直接メリットを感じられるサービスの提供を進めたいとしている。

クリーニングでのRFID運用は、「タグをBtoCでやりとりし、耐熱・耐水などハード面の要件が高く、かつ繰り返し使う」という点において、既存の用途とは異なる課題も現れそうだ。しかしながら、トレーサビリティの向上で得られるメリットは、企業側のみならず、消費者側にも実感しやすいものと感じられた。今後の衣服でのテスト運用などを超えて、クリーニングという身近な業態で新たな利便性が提供される日を期待したい。