光感受性はあらゆるイメージセンサにとって重要な仕様の1つですが、用途によっては、標準的なイメージセンサでは対応できない超低照度条件で動作可能なデバイスが必要です。顕微鏡で見た蛍光マーカ、眼底カメラで捉えた網膜画像、雲のない闇夜に撮影した監視映像のいずれを検出する場合であっても、超低照度イメージングを可能にする技術(照度0.1ルクス、フレームレート30fpsで撮像する技術)が必ず必要です。

歴史的に電子増倍型電荷結合素子(EMCCD)技術は、超低照度のシーンを捉える用途では大きな成功を収めてきました。EMCCDは、低照度下で検出したごく少数の電荷を何倍にも増やしてからセンサのアンプに転送するため、最初は見分けがつかない低い信号レベルでも、アンプのノイズ・フロアよりも高くなるように増幅して検出することができます。EMCCDは、低照度下での撮像に優れていて、単光子さえ検出できるほどですが、EMCCDレジスタに入力される信号レベルが高すぎると、電子増倍カスケードにオーバフローが起こり、極度の偽像が発生する可能性があるため、EMCCDを用いたセンサの用途は、明るい部分が一切ないシーンに限定されます。また、従来EMCCD設計に使用されてきたフル・フレーム・トランスファ技術は、約1Mピクセルが解像度の限界なので、動画に使用する際の空間画像品質をそれ以上向上させることはできません。

インターライン・トランスファEMCCD技術は、電子増倍出力レジスタの低照度感受性とインターライン・トランスファCCDの画像均質性、解像度スケーリング、電子グローバルシャッタの各機能を組み合わせることで、これらの制約を直接解消することを可能にしました。この組み合わせによって、超低照度から高照度まで連続して捉えることができるイメージセンサの開発が可能になり、その解像度は数Mピクセルに及びます。

インターライン・トランスファEMCCD技術の性能の鍵を握るのがイントラシーン・ゲイン切り替え機能です。この機能はシーンの中で必要な部分だけを選択して増倍することにより、高照度条件下でEMCCD出力レジスタにおけるオーバフローを回避します。この出力段のブロック図を図1に示します。図からわかるように、各ピクセルから出力された電荷は非破壊検知ノードを通過します。この電荷はカメラ制御部で読み取られ、ピクセルごとに信号レベルの最初の測定値が得られます。この情報はセンサ内のスイッチを駆動するのに使用されます。このスイッチの働きによって、カメラに設定した閾値に基づき2出力のいずれか一方に電荷パケットが転送されます。

図1:イントラシーン・ゲイン切り替え出力

電荷レベルの高いピクセル(画像内の明るい部分に相当)は、標準のCCD出力に転送されて電圧に変換されます。他方、電荷レベルの低いピクセル(画像内の暗い部分に相当)はEMCCD出力に転送され、そこでさらに増幅されてから電圧に変換されます。この2つのデータセットを合成して最終的な画像を生成します。この出力構造により、電荷レベルの高いピクセルから出力された電荷はEMCCDレジスタに入らないので、超低照度と高照度の両方を検出できると同時に、EMCCD出力レジスタのオーバフローに起因する偽像を回避できます。

この技術の威力は図2に見ることができます。高照度と超低照度の両方が含まれる1つのシーンを捉えた画像で、最も暗い部分は月明かりや星明かりだけで照らされています。

図2:明るい部分と非常に暗い部分の両方があるシーン。標準的なIT-CCDでの撮像(左図)、標準的なEMCCDでの撮像(中央図)、インターライン・トランスファEMCCDでの撮像(右図)

従来のイメージセンサ(図2の左の画像)は、明るい部分は良好に撮像できますが極端に暗い部分は見えません。従来のEMCCD(中央の画像)は、ゲインを上げれば極端に暗い部分の撮像も可能になりますがゲインを上げると、今度は明るい部分に起因する偽像によって画像の完全性が損なわれます。インターライン・トランスファEMCCD技術(右の画像)では、画像の極端に明るい部分から極端に暗い部分まで連続的にシーンを撮像可能です。ここで、「暗い」とは月明かりや星明かりしかない状態までが含まれます。

インターライン・トランスファEMCCD技術は、すでに研究段階から量産段階に進んでおり、今日では使用されている製品化も進められています。オン・セミコンダクターのイメージセンサ「KAE-02150」も、インターライン・トランスファEMCCD技術を用いることで、解像度1080p(1920×1080)、フレームレート30fpsで低照度撮像が可能であり、動画フレーム・レートで高感度撮像を行う必要がある用途(セキュリティ、監視、状況認識など)に対応します。これより高い解像度が必要な場合は、8Mピクセル(2856×2856)のイメージセンサ「KAE-08151」を使用することで対応可能です。KAE-08151は、多くの科学顕微鏡や医療機器に採用されている光学フォーマット(アスペクト比1対1、対角寸法22mm)のイメージセンサで、これらのデバイスは、インターライン・トランスファEMCCD技術の進歩を活かした、低照度条件下で高い性能を発揮するイメージセンサの最初の製品という位置づけになっています。

著者プロフィール

Michael De Luca(マイケル・デ・ルカ)
ON Semiconductor
イメージセンサ・グループ
インダストリアル & セキュリティ事業部
市場開拓担当マネージャ
デジタルイメージング製品とアプリケーションにおいて20年以上の経験を持ち、技術、販売、エンド・マーケットの広範囲な知識を有する。ニューヨーク州立大学バッファロー校で化学における理学士号を、またイェール大学で物理化学の博士号を取得。