人が歩いたり、走ったりして移動する際、目に映る景色も動くが、成人はその景色から、自身がどこに向かって移動しているのかをリアルタイムで認識する特徴的な視線パターンを生じさせているが、生後1歳半までの乳幼児では、そうした視線パターンがまったくないことが新潟大学の研究から明らかとなった。
これは同大人文学部の白井述 准教授、新潟国際情報大学の伊村知子 准教授らによる研究グループの成果で、詳細は、英国のオンライン学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
研究グループでは、これまでの研究から、生後半年に満たない乳児であっても、自身が進んでいる方向を認識する際に必要となる放射状の動きなどを含む、視覚的にかなり複雑な動きのパターンを認識できることを確認していたが、成人と同様に、そうした放射状の動きに視線を対応させる傾向があるのかについては分かっていなかった。
そこで今回の研究では、生後4カ月から18カ月までの乳幼児100名と、大学生20名を対象に、複数の点が放射状の軌道に沿って動く動画を見てもらい、その視線の動きを測定するという実験を実施。その結果、大学生では、これまでに知られているとおりの、放射状の動きの中心部分に視線が集中する傾向が示されたが、乳幼児、特に1歳未満の乳児の場合では、放射状の動きの周辺部分に視線が偏ることが分かったという。
今回の結果について研究グループでは、少なくとも1歳半までの乳幼児は、自身の進んでいる方向を認識する際に、大人とは異なる視覚情報を利用している可能性が示されたとするほか、景色の動きの様子から、自身の動きをコントロールする能力は、発達の過程で比較的長い時間をかけて培われるものである可能性があるとコメントしている。
なお、今後は、より年長の幼児期や児童期の子供を対象に実験を進め、発達のどの段階で、大人と同じような視線の動きが生じるのかを調べていくとするほか、身体運動機能の発達に個人差が生じる原理の解明にもつながる可能性があるとしており、将来の身体運動機能の向上や回復を促すといった応用も期待できるようになるかもしれないとしている。