「働き方改革」は、今年の8月に発足した第3次安倍内閣が進める構造改革の目玉の1つである。新内閣で働き方改革担当大臣として就任した加藤勝信氏は、実行計画で扱うテーマとして「同一労働同一賃金の実現」「時間労働の是正」「高齢者の就労促進」「テレワーク(在宅勤務)など柔軟な働き方の促進」の4項目を挙げた。本稿では、4番目のテーマとなったテレワークに着目し、在宅勤務という働き方をあらためて考えてみたい。

テレワークの定義について

日本企業は、モバイルデバイスの支給、サテライトオフィスの設置、在宅勤務制度の導入といったさまざまな取り組みを通じ、長年にわたってITを活用した新しいワークスタイルを模索してきた。そして、高機能なモバイルデバイスや高速データ通信回線の普及により、働く環境は多様化している。企業が新たなワークスタイルを導入する際、ITは重要な役割を担うことは間違いない。

テレワークという言葉は、「tele(離れた場所で)」と「work(働く)」を合わせた造語であり、ITを活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を指す。テレワークは、これまでの9時から5時までオフィスに勤務する固定的な働き方を否定するものではない。しかし、少子高齢化で労働者人口が減少することが確実な日本では、できるだけ仕事と育児・介護を両立させるための選択肢を用意することが、優秀な人材の離職を防止する上でも有効である。

一口にテレワークと言っても形態は多様であり、まずは「雇用型」と「自営型」に大別される。「雇用型」は、企業に勤務する被雇用者が行うテレワークを指し、自宅で業務に従事する「在宅勤務」、労働者が所属する部署があるオフィスではなく近接した地域にある小規模なオフィス等で業務に従事する「サテライトオフィス勤務」、モバイルデバイスを利用して労働者が選択した場所で業務に従事する「モバイルワーク」の3つが該当する。

一方、「自営型」とは、個人事業者や小規模事業者などが行うテレワークのことで、「SOHO」「内職副業型勤務」が分類される。また、IT機器を活用して仕事をする時間が1週間当たり8時間以上の者を「狭義のテレワーカー」、それ以外の者を「広義のテレワーカー」と区別することもある。

国内におけるテレワークの現状

国内の状況を見ると、実のところ、テレワーク人口は減少傾向にある。国土交通省では2002年からテレワーク人口実態を調査しており、2005年の調査を経て、2008年以降は毎年調査を行っている。「テレワーク人口実態調査」の2014年版の推計結果を見ると、2014年の在宅型テレワーク人口は約550万人、対前年度比で170万人の減少であった。2008年からの推移を見ると、2012年の約930万人をピークに減少傾向にある。さらに、雇用型と自営型の内訳を見ると、両方とも減少傾向にあるものの、自営型の落ち込みが特に大きい。

在宅型テレワーカー数の推移 出典:国土交通省

2012年が在宅型テレワーカーのピークとなっている背景には、前年の東日本大震災後、計画停電や節電が実施される中、BCP(事業継続計画)対策のリスク分散のため、あるいはオフィスの節電対策への効果が材料視されたことがあると見られる。そして、2013年以降に右肩上がりにテレワーカー数が増加しなかった原因としては、リスク分散という課題の緊急度が低下したことが考えられる。

また、総務省では2014年版の「通信利用動向調査」において、企業のテレワーク導入形態について調査している。結果は、テレワークを導入している企業は11.5%であり、形態としてはモバイルワークが66.8%と最も多く、在宅勤務は24.2%という結果だった。

テレワークの導入状況と形態 出典:総務省

テレワーカー数は減る傾向にあり、在宅勤務制度を導入・運用している企業は少数派にとどまるものの、以前は一部の外資系IT企業だけの制度であったものが、徐々に国内企業に制度導入が広がってきているようにも見受けられる。例えば、「テレワーク人口実態調査」の2015年版における先行導入企業のヒアリング結果を見ると、日本マイクロソフトのほか、カルビー、中外製薬、日本航空、明治安田生命、佐賀県庁と、さまざまな業種の企業と自治体の事例が紹介されている。

現状では足踏み状態が続くが、日本政府は、2013年に国家最先端IT国家創造宣言を閣議決定し、2020年までに、「テレワーク導入企業を3倍(2012年比)」「週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上」「25歳から44歳までの女性の就業率を73%まで高める」という目標を掲げている。

この目標を達成するには、IT活用が重要な役割を果たすことは間違いないが、ITだけでは解決できない課題の解決も不可欠である。いざ新しい制度を導入しようとなった場合に、IT部門に加え、労務管理や人事評価制度に従事する人事部や、オフィススペースの調達や通信費・光熱費を管理する総務部といった関連部門と共同で、改革に取り組まなくてはならないためだ。

後編では、先進企業が何を期待して在宅勤務制度を導入しているか、制度導入にあたり何が阻害要因となっているかを詳しく見ていくことにしたい。