慶應義塾大学(慶大)は6月1日、カーボンナノチューブをテンプレートとして、世界最小クラスの超極細超伝導ナノワイヤーを実現したと発表した。
同成果は、慶應義塾大学理工学部 牧英之准教授、物質・材料研究機構 森山悟士主任研究員、群馬大学理工学部 守田佳史准教授らの研究グループによるもので、5月31日付の米国科学誌「Applied Physics Letters」オンライン版に掲載された。
超伝導は、比較的マクロなサイズで量子現象が発現するため、電子デバイス、光電子デバイス、量子コンピュータなどで実用化されている。この超伝導体をナノメートルオーダーで微細化した場合、マクロにはない新しい超伝導現象が現れると期待されているが、多くの超伝導材料は微細加工が難しく、微小な超伝導体を用いたデバイスの実現を阻む原因となっている。
今回、同研究グループは、直径1nmのカーボンナノチューブに着目。架橋したカーボンナノチューブをテンプレートとして、超伝導材料である窒化ニオブ(NbN)を成長し、カーボンナノチューブ上に最小で約10nm幅の極細超伝導ナノワイヤーを形成することに成功した。電子顕微鏡での観察により、同超伝導ナノワイヤーは、全長数µmに渡って途切れておらず、高品質なナノワイヤーであることが確認されている。なお、NbN超伝導体は、超伝導転移温度が高く実用上重要な材料として知られており、さまざまな超伝導電子デバイスや光検出器などに応用されている。
さらに、同超伝導ナノワイヤー両端に電極構造を作製し電子デバイス化して測定したところ、低温にするほど超伝導状態が壊れて抵抗が上がるという超伝導-絶縁体転移や、磁束が超伝導ナノワイヤーを横切ってトンネルするという量子位相スリップなどといった、マクロな超伝導体では現れない特異な超伝導量子現象の観測にも成功した。この超伝導ナノワイヤーを用いたデバイスは、シリコンチップ上に直接形成して作製されており、今後さまざまな超伝導デバイスに適用可能であることも示されている。
同研究グループは、今回の成果について、量子ビットや超高感度光検出器といった新たな超伝導量子デバイスへの応用が期待されると説明している。