NECと産業技術総合研究所(産総研)は4月5日、ビッグデータ活用に向け、産総研の人工知能研究センター内に「産総研-NEC 人工知能連携研究室」を2016年6月1日付で設置すると発表した。

今回の取り組みは、ビッグデータ分析を行う際に、過去のデータを十分に集めることが難しい状況において、どのように不足分の情報をシミュレーションで補い、人工知能(AI)の能力を最大限にひきだすのか、といった「シミュレーションとAIの融合技術」の開発を官民一体で進めるもの。NEC 執行役員の西原基夫氏は、「NECはAIによる社会課題の解決支援を進めていきたいと思っている。しかもそれは、従来型のAIで解決できる部分のみならず、人間がさまざまな経験から得た知見を用いて解決している事象や、結論への制御や誘導といったところまで含めた効率化支援や、人に対する示唆の高度化といった新たな領域まで含めたものであり、そうした分野は、過去データを蓄積し、その膨大なデータを解析して導く結果、といった従来型の手法では不十分。今回設置される研究室は、そうした新たな手法を可能とするための第一歩」と研究室開設の背景を説明する。

AIを用いた社会課題の解決支援の方向性は2種類あるが、現状の技術ではAIが未経験な状況に対して適切な判断ができているとはいえない

今回設置される研究室は産官の連携研究室という位置づけで、民間企業が1億円以上/年規模、かつ3年以上継続して研究資金を負担すること。ならびに、研究資金から産総研職員の人件費の一部に充てること、といった条件の下、運営される。設置場所は産総研が2015年に設立した「人工知能センター」で、産総研 情報・人間工学領域 領域長の関口智嗣氏は、同研究室に対し、「人工知能のプラットフォームとして、産官学のイノベーション創出の拠点となることを期待している」と期待を示す。

赤い枠内が産総研とNECが連携することで、実現を目指す分野

研究室長には、大阪大学 産業科学研究所 教授の鷲尾隆氏が就任。研究開発のスタンスとしては、「基礎だけでなく、出口を見据えた形で、3つの基礎原理の探求を進め、産業応用に向けた部分に落とし込んでいく」(鷲尾氏)とする。

複雑化する社会課題と技術に対し、シミュレーション技術やセンシング技術とAIを融合させることで、これまで実現が困難であった製品開発などにつなげることが最終的な目標となる

具体的には「シミュレーションと機械学習技術の融合」「シミュレーションと自動推論技術の融合」「自立型人工知能間の挙動を調整」という3つの技術に関する研究プロジェクトが今後進められていく予定。1つ目のシミュレーションと機械学習技術の融合は、大規模災害といった、過去からのデータ蓄積が難しく、大量のデータに基づく従来型AI処理の適用が困難な領域に対し、コンピュータ上に構築したシミュレータ内で、観測したい現象のみを集中的に観測する手法などを確立することを目指す取り組みとなる。2つ目のシミュレーションと自動推論技術の融合は、実世界のシステムを模してシミュレータ上に構築した仮想世界と自動推論技術を融合することで、現実的な規模での知識データベースから妥当な推論を行う技術の開発を行おうというもの。これにより、未知の事象に対しても人間の意思決定支援が可能になるとする。そして3つ目となる自立型人工知能間の挙動を調整は、社会インフラや交通手段などの複数の自律制御システムをバラバラに動かすことで生じるシステム同士の衝突などを、協調させることで、全体として最適化を図ろうというものとなっている。

プロジェクト1「シミュレーションと機械学習技術の融合」の概要

プロジェクト2「シミュレーションと自動推論技術の融合」の概要

プロジェクト3「自立型人工知能間の挙動を調整」の概要

鷲尾氏としては、NECや産総研の研究員のほか、ポストドクター(PD)なども含め、「若手の活用も含め、フレッシュなアイデアの活用を図っていきたい」とするほか、産業への活用に向け、ニーズを有するユーザー企業との連携なども模索を図っていきたいとする。

なお、スケジュールとしては、1つ目と2つ目の研究プロジェクトについては、2016年6月末までをめどにPD募集を中心とした体制の整備を進め、7月以降、本格的な基礎原理の研究を進め、2017年9月ころをめどに応用研究開発を開始し、2019年3月に開発を終える予定。3つ目のプロジェクトについては、2017年夏ごろから基礎原理の研究を開始し、2018年以降に応用研究を開始進めて、2020年3月をめどに開発を終える予定としている。

左からNEC 執行役員の西原基夫氏、大阪大学 産業科学研究所の鷲尾隆 教授(研究室室長)、産総研 人工知能研究センター長の辻井潤一氏、産総研 情報・人間工学領域 領域長の関口智嗣氏

3つのプロジェクトの体制イメージとロードマップ。人員としては当初15名、最終的には30名程度を想定しているとのこと