山梨大学は4月1日、尿に含まれていた細胞から直接クローンマウスを作出することに成功したと発表した。

同成果は、同大学大学院 総合研究部生命工学専攻 水谷英二助教、若山照彦教授、発生工学研究センター 若山清香特任助教らの研究グループによるもので、4月1日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

同大学は、絶滅動物の復活や絶滅危惧種の救済のため、体細胞クローン技術の応用を検討している。しかしこういった種はヒトに慣れておらず、捕まえて体を押さえつけるだけでも死んでしまう危険性があることから、動物にストレスを与えずに簡便に体細胞を回収する必要があった。毛髪や唾液などは、個体に触れずにDNAを採取できるが、それらから回収されたDNAは多数の細胞の核が混ざっている。核移植ではひとつの細胞の核をひとつの卵子へ移植しなければならないため、これらのDNAは親子鑑定や個人の特定などには利用できても核移植には使えない。

一方、尿には排尿の際に尿管上皮細胞などが一緒に流れ出ることが知られており、最近はそれらを無菌で培養して増やし、ヒトiPS細胞の樹立やクローン牛が作出された例も報告されている。しかし、野生動物やマウスのような小動物の場合、無菌での回収は難しく、得られる尿や細胞もわずかであり、増やして利用することはできない。

そこで今回、同研究グループは、尿から回収した細胞を直接利用してクローンマウスの作出が可能かどうか検討するため、まず遺伝的背景の異なる4種類のマウスの尿から回収した細胞を用いて核移植した胚を4日間培養。すると、いずれの系統および性別でも38%~77%の胚がクローン胚盤胞へ発育した。

また2細胞期のクローン胚を卵管へ移植したところ、1歳齢の129B6F1のメスの尿細胞から1匹、3カ月齢のBDF1のメスから2匹、オスから1匹のクローンマウスが生まれた。このうち、BDF1マウスの尿由来のクローンマウスを性成熟後に交配したところ、子供を出産。これにより、これらのクローンマウスは外見が正常で健康なだけでなく、正常な繁殖能力も有していることがわかる。

さらに、同研究グループは、得られたクローン胚盤胞をES細胞樹立培地で培養することでクローン胚からES細胞を樹立。得られたクローンES細胞については、ES細胞特異的マーカーなどでES細胞と同等の未分化性を有することが確認されている。

同研究グループは今回の成果について、尿内に含まれている細胞が、無菌で培養して増やさなくてもクローン動物の作製に使えることを証明するもので、野生動物のように無菌で尿を採取できない場合や、小型動物のように尿がほとんど得られない動物であっても利用できることになると説明している。今後は排尿後何時間まで尿細胞が核移植のドナーとして使えるか検討していく予定だという。

(左)B6D2F1メスの尿由来のクローンマウス。ひとつの胎児は妊娠中期に死亡したと思われる (右)B6D2F1メスのクローンマウスとB6D2F1オスのクローンマウスを交配した結果、多数の次世代を作ることができた