岡山大学は2月29日、標的抗原のないがんに人工的に標的抗原を発生させることで、既存の抗体医薬品を用いた近赤外線光線免疫療法を応用する新たな治療法を開発したと発表した。

同成果は岡山大学病院低侵襲治療センターの香川俊輔 准教授、米国国立がん研究所(NCI)の小林久隆 主任研究員らの研究グループによるもので、米科学誌「Molecular Cancer Therapeutics」電子版で公開された。

胃がんや乳がんではHER2というタンパク抗原を標的とした抗体医薬品が開発され、臨床で抗腫瘍効果が得られている。しかし、同治療法が適応できるのはHER2抗原が表出している細胞だけであり、結果的に胃がん、乳がんの全てを治療することができない。また、抗体薬も単独では効果が弱いことが課題となっていた。これに対して近年、近赤外線が当たると細胞を破壊する光感受性物質を抗体に結合させ、その抗体をがん細胞に運んで治療する光線免疫療法という新たな分子標的治療が開発され、抗体医薬品による抗腫瘍効果の向上が報告されている。

今回の研究では、遺伝子改変ウイルス製剤によりHER2を積極的に発現させることで、標的抗原を発現していないがんに対しても既存の抗HER2抗体薬をがん細胞に到達させて、近赤外線光線免疫療法を応用できることをマウスを用いた実験で証明した。研究では標的抗原としてHER2が用いられたが、ウイルスを用いて標的抗原を人工的に発現させる手法は、理論上さまざまな標的抗原に応用可能と考えられるという。また、有害作用が少ない近赤外線を用いる光線免疫療法との組み合わせで、新しい治療の選択肢となることが期待される。

同研究グループは今後、臨床応用を目指して研究を進めるとしている。

標的抗原を強制的に発現させ、既存の抗体医薬品と光線免疫療法を組み合わせた分子標的治療のイメージ図