柔軟性のある保護

図1に示すように、2段階の保護ソリューションを想定できます。このソリューションは、バッテリへの短絡状況に耐えうるESD保護ダイオード、その後バッテリレベルのDC信号を保護回路の損傷から守るデュアルFETから構成されています。電子ヒューズICを使用して、Vbus接続を過電流状態から保護します。ディスクリート部品を使用したこの実装を使用して、USB Vbusと高速データラインを保護するために最適化されたデバイスを選択できます。

図1 「ESD7002」および「NVLJD4007」デュアルFETを使用したUSB2.0ポートデータライン向けのディスクリートESD過渡電流とバッテリへの短絡保護

ESD保護デバイスは、IEC61000-4-2レベル4に適合する高いESD保護レベルで設計されており、AEC-Q101に準拠、 PPAP対応となっています。各デバイスの2つの内部ダイオードは、1つのD+/D-ペアを保護し、ティピカル値0.3pFのグランドへのI/O低キャパシタンスを持ちます。シグナル・インテグリティを保護するために、キャパシタンスが厳密に整合されます。低い動的抵抗により、低いクランプ電圧が可能となり、18Vのブレークダウン電圧により、デバイスは、ブレークダウンすることなく、9V から16Vまでの範囲のバッテリへの短絡状態に耐えることができます。

デュアルFETは低いオン状態抵抗(RDS(ON))により設計され、フロースルー設計によって、高速シグナル・インテグリティを維持可能とする内部レイアウトが特徴的です。1.0Vのしきい値電圧により、USBレベルの信号に合わせた、低いゲートドライブ電圧で運用可能です。

Vbus過電流保護は、図2の「NIS5135」に見られるように、電子ヒューズ(eFuse)によって実現されます。この3.6A/5Vデバイスは、接続されたUSBデバイスを、正常な状態で運用を継続可能とすると同時に、 過負荷や短絡状態の場合、過剰な電流消費からVbusラインを守るように設計されています。また、eFuseは事前に定義された値への出力クランピングにより源から発生する電圧スパイクから、USBデバイス(またはその下のダウンストリームIC)を保護します。

図2 「NIS5135 eFuse」を使用した5Vインタフェース向け過電流保護

図1と図2に示される電気回路を組み合わせ、完全なUSB保護ソリューション、すなわちデータライン、Vbus、グランド接続を含むUSB 2.0 ESD保護を実現します。また、これは、自動車のバッテリへの短絡やグランドへの短絡などの障害から保護します。このアプローチは、ディスクリート部品を使用し、数多くの技術的、経済的メリットを提供します。まず、バッテリへの短絡保護の有無にかかわらず、柔軟にESD保護を実行することで、OEMは最終顧客の仕様を満たす適切なソリューションを構成できます。さらに、選択されたFETのフロースルー接続によって、 車載認定されたESDデバイスと互換性のあるレイアウトで、バッテリに対する短絡保護を簡単に追加できます。

さらに、設計者は、最も便利な場所で、バッテリへの短絡保護回路を配置すると同時に、最大限の効果を実現するため、ESD保護デバイスをコネクタの近くに自由に配置できます。バッテリへの短絡接続を実現するデュアルNFETは、USB2.0、HDMI、LVDSなど、さまざまなインタフェースでの使用に適しています。これは、設計再利用を促進し、OEMが、さまざまな既存の市場や新興市場をコスト効果の高い方法でターゲット可能となります。

パフォーマンスの証明

テストと検証は、USB2.0通信プロトコルに準拠したアイ・ダイアグラム・シグナル・インテグリティテストを使用して特性化されます。最小限の開いた「アイ」のUSBプロトコル定義を、ソリューションの全体的なパフォーマンスを決定する指針として使用しています。図3は、480Mbit/sのUSB 2.0信号を使用したアイ・ダイアグラム・シグナル・インテグリティテストを適用してテストを実施し、図1に示されるソリューションの満足のいくテスト結果が得られていることを示しています。

図3 保護ネットワークに適用されるUSB 2.0アイ・ダイアグラムテストの結果

データラインでアイ・ダイアグラムを実行する前に、10分間データラインにバッテリへの短絡テストとグランドへの短絡テストを追加で実施しました。50Ωプローブ付きオシロスコープを使用して観察された信号は、きれいなアイ・ダイアグラムを示しています。データラインをグランドに接続した場合、信号は著しく劣化します。10分後短絡を取り除くと即座に、信号が正常のアイ・ダイアグラムに回復します。出力がバッテリ(+16V)に対し短絡すると、入力ラインはVcc(+5V)電力レベルに維持されます。+5Vを越えるV-peakの入力信号がある場合、出力が+16Vに対し短絡した後、そのレベルが維持されます。バッテリへの短絡状態を取り除いた後、信号パターンは正常に戻ります。

テスト D+ D-
ESD IEC61000-4-2 +4kV 接点 合格 合格
ESD IEC61000-4-2 -4kV接点 合格 合格
ESD IEC61000-4-2 +6kV接点 合格 合格
ESD IEC61000-4-2 -6kV接点 合格 合格
ESD IEC61000-4-2 +8kV接点 合格 合格
ESD IEC61000-4-2 -8kV 接点 合格 合格
USB 2.0 アイ・ダイアグラム 合格 合格
表1 テスト結果の概要

結論

今日の自動車購入者が、自宅と同じようにデバイスを接続することを車内でも期待する中で、USB接続を提供するかどうかではなく、ポートをいくつ提供するかが、自動車OEMの課題となっています。

モジュールや完成車に適用可能なテスト方法はすでに、ISO 7637やISO 10605などの文書に規定されています。インフォテイメント機器、特にヘッドユニットやADASの設計者は、 USB電力、グランドおよびデータラインを保護するために効果的なソリューションが必要となっています。ディスクリートESD保護ダイオード、短絡保護FET、Vbus過電流保護を提供するeFuseから構成されるネットワークは、必要なパフォーマンスを実現すると同時に、設計者に、さまざまな自動車市場セクターやアプリケーション向けに最もコスト効果の高い保護を柔軟に提供できます。

著者紹介

Deres Eshete(デレス・エシュテ)
ON Semiconductor
スタンダード・プロダクト・グループ
オートモーティブ・ビジネスデェベロップメント・マネージャ
2011年にON Semiconductorに入社後、世界各地のさまざまな出版物に向けて多くの車載関連記事を執筆。ON Semiconductor入社以前はDelphiでセーフティ・アプリケーションにつながる役割を担ったインフォテインメントとナビゲーション・システムの主任設計技術者として従事。米国ローズ・ハルマン工科大学で電気工学理学士、ノートルダム大学で電気工学修士、パデュー大学のクラナート・ビジネススクールで経営学修士を取得。