ルネサス エレクトロニクスは12月10日、東京都内にてプライベートイベント「Renesas DevCon 2015」を開催した。本稿では、同イベントの基調講演の様子をお伝えする。
IoTプラットフォーム「Renesas Synergy」で開発着手が可能に
IoTへの期待が高まる昨今だが、米調査会社Gartnerは、新しい技術の今後の方向性に関する分析を図式化した「ハイプサイクル」において、IoTは現在「過度な期待」のピーク期であると発表している。
この結果に対し、基調講演冒頭に登壇したルネサス エレクトロニクス 執行役員常務 兼 CSMO(Chief Sales and Marketing Officer) 高橋恒雄氏は、「現在はマーケットができておらず、期待だけが先行している状態。しかしポジティブに考えると、我々がマーケットやビジネスモデルを作らなければならない時期にきているということだ」という見解を示した。
こういった背景のなか、同社は今年6月にIoT製品開発プラットフォーム「Renesas Synergy」を発表。12月8日には、ソフトウェアや開発環境を無償入手できるクラウド環境「Renesas Synergyギャラリー」がオープン。さらに専用マイクロコントローラであるS7シリーズの「S7G2」とS3シリーズの「S3A7」が出荷開始となり、同プラットフォームを利用したIoT開発に着手することが可能となった。
「Renesas Synergy」の概要 |
Renesas Synergyのマイクロコントローラは、S7とS3のほか、S1およびS5の4シリーズで展開される。ルネサス エレクトロニクス 執行役員 兼 グローバルセールスマーケティング本部 副本部長の川嶋学氏は「完全にスケーラブルであることが特徴」と強調する。
また同社はRenesas Synergyの開発環境として、安価な評価ボードStarter Kits(SK)、本格評価・開発目的に使用できる開発ボードDevelopment Kits(DK)の販売を開始。同プラットフォームのすべての機能を評価することができる、S7G2を搭載したSK「SK-S7G2」、S7G2を搭載し4.3インチの着脱可能なWQVGAタッチパネル液晶とVGAカメラを備えたDK「DK-S7G2」および、S3A7を搭載したセグメントLCDを備えたDK「DK-S3A7」が用意されており、Renesas Synergyギャラリー登録ユーザーはこれらのキットを購入することで評価・開発を開始することが可能となった。
川嶋氏は同プラットフォームについて「ルネサスはこれまで、ローエンドからハイエンドまで幅広い選択肢のMCU/MPUを提供してきた。今後は過去の経験や資産を活かして新しいプラットフォームを提供していきたいと考えている。それがSynergy」と説明している。IoT化の波により、サービスを起点とした新しいモノづくりをする時代になりつつあるなか、同プラットフォームを用いることで、"バリバリ"のハードウェアエンジニアでないユーザーでも、アイディアをいち早く物にできるようにするのが狙いだ。
マイコン/MPUでAIの実現を目指す
基調講演後半には、ルネサス エレクトロニクス 執行役員 兼 第二ソリューション事業本部 本部長の横田善和氏が登壇。「我々は今年から大きく舵を切り始めている。半導体の進化で、安心して暮らせる社会を実現したい」と、同社の成長戦略について説明した。
同社は今後、ハードウェア化RTOS(HWRTOS)、DRP(Dynamically Reconfigurable Processor:動的再構成可能プロセッサ)、同社のパートナー企業が提供するアドオンソフトウェア「VSA(Verified Software Add-ons)」、リアルタイム画像認識といった技術を向上させていくことで、「マイコンおよび組み込み用MPUでAIが実現できるようになる世界を作り上げていきたい」(横田氏)としている。
この未来を実現するために「物にインテリジェンスを与えて"自律"させ、物と物をつなげることで新たな価値を生む」と、横田氏は昨年のDevConで宣言。この宣言の実現に向けて同社は、組み込みシステムをM2Mで自律させる取り組みを行ってきている。 近年、IoTに関連したビッグデータをクラウドにあげて活用していくという取り組みが行われてきているが、現状では1000m秒くらいの時間が掛かるため、決して応答性が良いとは言えない。今後同社としては、組み込みシステムにインテリジェンスを与えることで、リアルタイム性を追求。人間の反射神経よりも早く反応できる、数m秒程度の応答速度を目指していく。
また、横田氏はAIの事例として茨城県・那珂工場の実証実験について紹介した。同工場では、従来MESやSCADAなどのシステムコントロール側で行っていたデータの収集を、産業分野向けのプラットフォーム「R-IN(Renesas's Platform for INdustry)」を搭載したAIボードに代替。1カ月で50Gバイト程度となる収集データを外部のコンピュータを使って学習し、その結果をR-INのAIボードに実装するような試みを行った。既存の装置を簡単に改装することで、AIを実現できるのが特徴だ。たとえば同システムを工場の異常検知に利用すると、人が異常を判断する場合に比べ精度を6倍程度高めることができたという。
さらに同社は組み込みシステムの次世代として、インテリジェンス「e-I(Embedded-Intelligence)」に加え、「e-AI(Embedded-Artificial Intelligence)という概念を導入する。たとえばロボットにおいては、モーター制御やセンサデータの解析などをe-Iで、リアルタイムの学習や判断をe-AIでサポートすることが考えられる。ロボットだけでなく、スマートホームやヘルスケアにも適用していく考えだ。
横田氏は、「今後ともマイコン、MPUにインテリジェンスを与え、将来的にはAIも与えていきたい。AIは現在、外部のPCで行っているが、今後はスタンドアロンで行えるようにしていきたい」と今後の展望を述べ、講演を締めくくった。