欧米を皮切りに、デジタルマーケティングの分野ではオンライン動画広告が注目を集め、利用が本格化している。さらに、動画活用の次の段階として、顧客のデータに基づいてOne to Oneで動画コンテンツを再生する「パーソナライズド動画」の活用がが始まっている。

まずはこの動画を見て欲しい。


これは、Video Billと呼ばれる請求書の説明を行う動画のサンプルで、通信会社からMaryさんに対する2月分の請求金額がその明細と共に一つ一つ細かく説明されている。

動画の後半では、「あなたは国際通話が多いようなので、国際通話パックがお勧めですよ」というオプションの提案もある。内容は完全にMaryさんのためだけにパーソナライズされているわけだ。これが、本稿から3回にわたって紹介する「パーソナライズド動画」の一例となる。

まず、ここでいう「パーソナライズド動画」とは、以下の条件を満たすものを指す。 

・オンラインで再生される
・視聴者のデータに基づいてテキストや画像を差し替えることができる
・視聴者のデータに基づいて動画のシナリオ(ストーリー)を変えることができる
・視聴者がアクセスした時点のデータに基づいて動画がリアルタイムに生成される


パーソナライズド動画の活用は、2010年ころに欧米で始まった。2015年7月時点、パーソナライズド動画のサービスを提供する会社は国内外に数社存在し、Video Bill(ビデオ請求書)に代表されるCRM(顧客関係管理)系のソリューションと動画広告を配信する広告系のソリューションがある。

動画のパーソナライズ方法には、大きく分けて2つのパターンが存在する。

1 : 差し込み
動画中に視聴者のデータに基づいてテキストや音声、画像を差し込む。
中でも、テキストの差し込みが最も多く、Video Billの場合は電話会社からの請求明細がすべて差し込まれて表示されている。音声の場合は、あらかじめ録音してあるデータを差し込む場合と、テキストから音声合成によって生成して差し込む場合がある。

2 : シナリオの分岐
動画がいくつかの「ユニット」に分割されていて、ユニットの組み合わせで一連の動画シナリオとして再生される。そのシナリオを視聴者のデータに基づいて条件分岐させ、パーソナライズする仕組みとなる。例えば、イントロに続いてユニットAとBが用意されており、ユーザーが男性ならA、女性ならBが再生される。


「パーソナライズド動画」の主な活用シーン

パーソナライズド動画は主に、以下のようなシーンで活用される。サービス提供各社のホームページからサンプルビデオを紹介しよう。


テキストと画像の組合せに比べると、動画の分かりやすさとインパクトは圧倒的ではないだろうか。保険の事例のように、自分の契約内容やステイタスの説明を動画で見ると非常に分かりやすいし印象に残る。

複雑な内容だと、自分で読み解いていくためには能動的な努力が必要になるが、動画による説明なら顧客は受け身で楽に理解できる。要は、顧客体験の質が根本的に違うのだ。

一方で、動画の最大の難点は、内容の検索性の低さにある。自分に必要な部分だけを抜き出して見ることは、現状難しく、自分に関係無いもしくは関心が無い内容まで見る必要がある。

パーソナライズによってその問題を解決することができると筆者は考える。加えて、視聴者のニーズや関心のある内容だけを見せることにより、非常に高い反応を得ることもできるのだ。

この「パーソナライズド動画」は今後、データドリブンなOne to Oneマーケティングを実現するための大きな武器になるだろう。次回は、国内外の具体的な事例とその効果を見てみよう。

著者紹介

岡本泰治

株式会社ディレクタス 代表取締役。リクルートを経て、1993年にディレクタスを設立。以後一貫してデータベースマーケティングに携わる。航空会社や自動車メーカー、総合電機メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案したほか、2012年よりBtoC向けマーケティングオート メーションの導入・運用を開始。クロスチャネル One-to-Oneマーケティングの戦略立案から実行までを支援する。著書に「ケースで学ぶマーケティングの教科書」(出版社 : 秀和システム / 出版日 : 2008年2月)がある。