アマゾンデータサービスジャパンは6月2日~3日、東京・グランドプリンスホテル新高輪にて、アマゾンウェブサービス(AWS)の最新技術や導入事例、活用方法などを紹介するカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2015」を開催した。また今年から新たに、モバイル・Webアプリケーション開発を行うデベロッパーを対象とした「デベロッパー・カンファレンス」も行われた。

本稿では、デベロッパー・カンファレンスのセッション「デベロッパーが切り拓く、次の時代」についてレポートする。

同セッションでは、Kaizen Platformの技術顧問 伊藤直也氏と、クラウドワークス 執行役員 CTO 大場光一郎氏が登壇。アマゾンデータサービスジャパンの松尾康博氏をモデレーターとして、技術構造とそれに伴う技術が激しく変化している今を生きるデベロッパーの心構えに関するパネルディスカッションが行われた。

プラットフォームの変遷

技術を選ぶのは興味? 課題解決の手段?

セッション冒頭、ここ10年の業界の変化について振り返っていくなかで大場氏は、「昔は大手ベンダーから示された技術ロードマップがあり、それをキャッチアップしてどう会社に生かしていくかということを考えていたが、今ではだれもロードマップを提示してくれなくなった」と語った。これを受けて伊藤氏は、「テクノロジーだけでなくビジネス的な面でも、ロードマップがないなかで成果をださなければならなくなってきている」と指摘した。

左から、アマゾンデータサービスジャパン 松尾康博氏、Kaizen Platform 技術顧問 伊藤直也氏、クラウドワークス 執行役員 CTO 大場光一郎氏

技術を取捨選択した際の考え方について問われると、伊藤氏は「これまでオープンソースを選択してきたが、それが正解だったかどうかはわからない。BtoCはお金がなくコミュニティに寄り添っていくというトレンドがあったから、オープンなものを選んできただけ。技術は手段でしかない。選択の良し悪しによってキャリアを築いていくという考え方は危ういのでは」と、技術の取捨選択というテーマ自体に疑問を投げかけた。

一方、大場氏は「自分が解決できる問題をみつけて、それに対して使うという意味で技術を選択するのが正しいあり方なのでは。技術を選択して、“これで行こう!”というのはこわい。メインストリームを扱う人からみて、おもちゃだと言われるような技術を選んできたかな、というのはある」と、これまでの自身の選択について振り返った。

では、大場氏のように、好奇心を優先して技術を選択すべきなのだろうか。それとも、伊藤氏が主張するように、課題解決の手段として技術を選ぶのがよいのだろうか。

大場氏は「うまく課題が設定できて、エンジニアリングのバックグラウンドがある人は起業してしまえばよいのでは。いろんな難題が降ってくるから会社に入っている、というところはある。会社として成長してステージが変わっていくと、めまぐるしく問題が変わってくる。そんななかで技術を使って楽しんだり、挑戦したりする場を探すのが大事」と技術的な興味を持つことの大切さを語ったことに対し、伊藤氏は大場氏とは考え方が異なるとしたうえで「技術者が、自分ができる範囲の技術でモノを作ると失敗する。技術的な興味から出発すると、“この技術はここまでしかできない”と発想が制限されてしまう。一方で、世紀の大発明は、好奇心から出発しているという話もある。しかし、僕らがやっているのはビジネスモデルなので、そのあたりは割り切っている」と、一貫して「課題解決の手段としての技術」という考え方を主張していた。

外部環境の変化に対応していくために

伊藤直也氏プロフィール

「これからの外部環境の変化をどう迎え撃って行けばよいのか」というテーマについて、チームを編成する立場として伊藤氏は、「自分の若いときと比べて変わったと思うのは、作るモノがあいまいになってきたということ。昔は、スケジュールも作るモノもはっきりしていて、そこをきっちりさせるというマネジメントでよかったが、今はいろんなものが決まっていない状態でやらなければならないので、“あいまい耐性”が高いか低いか、ということがチームでやっていくうえで重要」とする。実際にKaizen Platformでは、あいまいなままプロジェクトを渡されることが多く、だんだんとプロダクトが形になっていくような進め方になっているという。大場氏も「そもそも外部環境は変化するものだということを、受け入れられる姿勢を持つことが前提」として、自身の会社も大きく組織を変えたことについて紹介した。

クラウドワークスは以前、開発部門と企画部門が完全に分かれていたという。バックエンドからアプリ開発までいろいろなことをやりたいというフルスタック思考のエンジニアが多く、彼らだけをまとめたほうがよいと考えからだ。しかし、会社として温度感を合わせて同じ方向に向かって行かなければならないときに、スタッフ間の温度差ができてしまった。そこで、事業部制へと切り替え、企画と開発の縦割り組織とした。

「開発部門だけで区切ってしまうと、自分たちでやることは開発だけ、と捉えてしまいがち。ビジネスのゴールに対しては、開発者も責任をもたないといけない。責任境界があいまいになる面もあるが、そのなかでどれだけできるかということが試され、結果的にアウトプットがよくなる」(伊藤氏)

大場光一郎氏プロフィール

また同テーマに対し、デベロッパー個人として伊藤氏は「特定の技術だけでやっていくという選択はリスクが高い。トレンドが変わってしまったとき、新しいテクノロジーが出てきたときに、それを牽引していくのは若い人。ビジネス環境があいまいになってきているなかで、いろんなスキルを身につけて、それを組み合わせていくというのが重要になっているし、自分もそれを意識している」とコメントした。

最後に、会場に集まった参加者に対して、それぞれ次のようにアドバイスを述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

大場氏:「SIerから転職を考えた際の“データセンターのプロが、本屋に負けるのか?”という上司の言葉が忘れられない(笑)。現実がどうなっているのかということを把握して、真面目にやっていくしかない」

伊藤氏:「ここに集まっている人たちは、正解がわからなくて不安という気持ちがあるのかもしれないが、自分も正解はわからないし不安。正解はわからなくてよいが、トッププレーヤーたちと自分のギャップがだいたいどれくらいなのかということを把握しておくのは大事だと思う」