がん統計が前進し、全国の最新の罹患推計に加え、各都道府県別の罹患率の地図もでき上がった。全国の各都道府県で2011年にがんに罹患(新たにがんと診断されること)した推計値を算出した詳しい報告書「全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ)2011年罹患数・率報告」を、国立がん研究センターがん対策情報センター(センター長、若尾文彦)が3月26日、発表した。その中で、がん罹患率の全国地図を初めて示した。罹患の地域差は、がんの予防、早期発見、治療などの、各都道府県がん対策に役立つと期待される。
都道府県が1975年から取り組んでいる「地域がん登録」を基に推定した。11年分は39道府県(10年は30府県)ががん登録を実施し、そのうち、厳格な国際基準を満たした14県のデータから、全国の11年のがん罹患数(全部位、男女合計)を85万1537人と推定した。全国の1年間の新たながん罹患推計数は09年の77.6万人、10年の80.5万人から大幅に増えたが、若尾文彦センター長は「高齢化や診断技術向上の要素よりも、推計の根拠となるがん登録の精度が上がったことが影響した」とみている。
部位ごとの罹患数では、男性で10年に4位だった前立腺がんが2位となり、前立腺がんの早期診断が急増しつつあることがうかがえた。女性の部位別の順位は変わらなかった。罹患は男性で胃がんが、女性で乳がんが依然最も多かった。がん統計の精度向上で、今回から都道府県別の推計罹患率(年齢構成などを調整済み)も、全部位の集計と7部位に関して算出し、全国地図で示した。その結果、全部位では、北海道、東北、山陰地方、九州北部で、がん死亡率、罹患率ともに高い傾向が見られた。
部位別の罹患率で違いが最も目立ったのが肝がんで、西日本の多くの県で男女とも全国平均の1.2倍以上にのぼった。肝がんの主要な原因とされる肝炎ウイルスの感染率が西日本で高いことを反映したと推定されている。胃がんは食塩摂取率が高い日本海側で多く、肺がんは喫煙率が高い北海道と青森県、近畿圏で高い傾向が浮かび上がった。大腸がんの罹患は北海道、東北、山陰地方でやや高かった。乳房、子宮、前立腺のがんは地域差があまりなかった。
がん登録を実施する都道府県は年々増えており、次回の12年分からはすべての都道府県で集計ができる。16年からは法律に基づく「全国がん登録」が始まり、日本のがんの実態把握が飛躍する。若尾文彦センター長は「16年以降、がん罹患率の正確な実態がわかる。それまでに都道府県のがん登録を基に、統計の精度を上げて、がんの推計がより確実にできるよう改良を重ね、毎年報告していく」とがん統計の意義を話している。