そして、ホンダと菅野氏の協業が始まる。2011年3月11日の東日本大震災。特に東北地方は地震や津波等によってインフラに壊滅的なダメージを受けた。道路も例外ではない。インターナビの走行データを使って何か貢献できないかと考えたホンダのインターナビチームは、インターナビで捉えた走行データを分析。どの道を車が通った実績があるのか?というデータを可視化した「通行実績情報マップ」プロジェクトを立ち上げ、震災後翌日にいち早くホンダのWebサイトで無償公開した。

このマップはグーグルの汎用マップ形式で配布され、グーグル・アースで読み込んで使うことができた。また、しばらくしてグーグルのスタッフによってグーグル・クライシスレスポンスにも取り込まれたことで一気に拡散し、より多くの人に使われたのだ。 そしてこのプロジェクトの一貫で菅野氏が制作した、「通行実績情報マップ」で公開されたインターナビの走行情報でアルタイムに復興に向けて道がつながっていく様子を「20日間の道の記憶」として表現したインスタレーション作品「CONNECTING LIFELINES」は、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで5部門同時受賞するなど、数多くの国際広告賞で高い評価を獲得した。

復興に向けて道がつながっていく様子を"20日間の道の記憶"として表現した「CONNECTING LIFELINES」

その後、菅野氏はインターナビの「dots」プロジェクト、アイルトン・セナの鈴鹿サーキット当時世界最速ラップをエンジン音と光で再現した「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」、「東京オリンピック招致プレゼンテーション」でフェンシングの太田雄貴選手が使用した次世代の実況中継システムの映像、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル 2013」にゲスト招待されたPerfumeのライブパフォーマンスのプロジェクションマッピングなど、話題のプロジェクトを手がけている。

「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」:1989年のF1日本グランプリ予選でアイルトン・セナが樹立した世界最速ラップ。ホンダが残していたこのときの走行データをもとに、セナの走りを光と音で鈴鹿サーキットによみがえらせた

「かつて、広告の世界では『Art & Copy』というふたつの単語がメソッドとして用いられてきました。しかし、今必要なのは『Art, Copy & Code』なのです」と菅野氏は語る。これからのクリエイティブではコード、すなわちデータをプログラミング言語を用いてストーリーを描き、ビジュアル表現するスキルこそが必須となる。「イノベーションは何もないところから生み出されるのではなく、すでにあるテクノロジーが今までにない使われ方をしたときに起きるのです」。

このコメントには一般参加者のみならず、普段クリエイティブフィールドに身を置くゲスト登壇者たちも深い感銘を受け、eAT KANAZAWA実行委員長の中島信也(なかじましんや)氏(東北新社専務取締役)にいたっては「もう後半のセッション全部やめてこの話をどこまでも聞いていたい」とまで絶賛するほどのスペシャルなセミナーだった。

(C)CannesLions,GettyImages,Dentsu.inc
「カンヌ国際広告映画祭でのPerfumeのステージ」:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル 2013にて、「Spending all my time」を歌い踊る白い衣装を着たPerfumeの3人に映像を投影し、プロジェクションマッピングの手法を用いた演出を行った

「東京オリンピックの招致プレゼン動画」:東京オリンピックの招致活動の際、フェンシング・太田雄貴選手のプレゼンテーションで使われた作品。選手の体と剣先をモーションキャプチャーカメラで撮影することでデータを取り、フェンシングの速い動きを光で視覚化した

(氷川りそな)