東京大学と理化学研究所(理研)は2月10日、低温環境で原子の高精度分光を行う光格子時計を開発し、2台の時計が2×10-18の精度で一致することを実証したと発表した。この精度は、2台の時計で1秒のずれが生じるのに160億年かかることに相当するという。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の香取秀俊教授(理研 主任研究員)、理研 香取量子計測研究室の高本将男研究員らによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Photonics」に掲載された。
光格子時計は、現在の"秒"を定義するセシウム原子時計の精度を1000倍近く向上させる次世代の時間標準として、世界中で盛んに研究されている。この光格子時計の精度向上を阻む最大の要因は、原子を囲む室温の壁から放射される電磁波(黒体輻射)が、原子固有の振り子の振動数を変化させてしまうことだった。
研究グループは、低温環境でストロンチウム原子を分光することによって、黒体輻射の影響を1/100に低減する低温動作・光格子時計を開発した。そして、2台の時計を約1カ月間にわたって比較することで、それらが2×10-18の精度で一致することを確認した。このような高精度な原子時計の実現は、"秒の再定義"を迫るだけでなく、従来の時計の概念を超える新しい応用の可能性を秘めている。また、離れた場所にある2台の原子時計の重力による相対論的な時間の遅れを検出することで、土地の高低差を測る"相対論的な測地技術"への展開の他、物理定数の恒常性の検証など、新たな基盤技術の創出や新しい基礎物理学的な知見をもたらすことが期待されるとコメントしている。