ハイブリッド車の開発で見せたトヨタの底力

続いては、Freescaleの重要な顧客であるトヨタ自動車による、ハイブリッド自動車開発に関する基調講演が実施された。講演者はトヨタ自動車でハイブリッドシステムの開発を主導してきた、嵯峨宏英氏である。講演のタイトルは「トヨタのHV開発マネジメント」で、世界初の量産ハイブリッド自動車「プリウス」の開発から始まる、ハイブリッドシステムの開発体制と開発マネジメントの歴史を一気に解説してくれた。

嵯峨宏英(さが・こうえい)氏。トヨタ自動車 ユニットセンター副センター長、モータースポーツユニット開発部 統括取締役・専務役員をつとめる

1997年に発売されたトヨタのハイブリッド自動車は、今年(2014年)9月に累計販売台数が700万台に達したと嵯峨氏は始めにハイブリッド車の現状を示した。ハイブリッド自動車や電気自動車などのエコカーは「普及してこそ環境に貢献できる」との思想でトヨタはエコカーを開発してきた。700万台という台数は世界の自動車販売台数に比べればわずかな台数であるものの、電気自動車に比べれば、はるかに膨大な台数である。特に日本市場では乗用車販売台数のランキングには常にハイブリッド乗用車が上位に入っている(2014年11月の新車販売台数実績はハイブリッド車「アクア」がトップ、ハイブリッド車「プリウス」が2位、日本自動車販売連合会の公表データ)。日本の乗用車市場では、ハイブリッド車はベストセラー車になっている。

そのハイブリッド車は、技術的にはきわめて複雑なシステムである。このため、システム全体を見渡せる技術者が存在しない。そこで開発にあたっては、これまでのガソリン車の開発(開発主査が開発チームを率いる)組織とまったく異なる。大部屋方式を採用した。エンジン、制御、電池、モータ、パワー制御ユニット(PCU)、トランスミッション、回路などの各ユニット開発チームをなるべく1カ所にまとめ、各ユニット間を強く連携させることで開発にあたった。初代プリウスの開発では、モーターとPCU、電池の開発を大部屋にまとめた。このハイブリッドユニット開発の大部屋が、ユニット生産の部門とやり取りした。

そして3代目のプリウスを開発するときには大部屋体制を拡大し、開発部署をハードと制御の2部に分けるとともに、拠点の集約を本格化した。大部屋にはエンジン、トランスミッション、モーター、PCU、電池の開発チームが入り、各チームがそれぞれの生産技術部門と連携した。

またこれらの開発を通じて年間30万台の販売という普及目標と、ガソリン車に比べたコスト増分を3代目プリウスでは2代目の2分の1にし、4代目の開発ではコスト増分を3代目の4分の1は減らす(25%減)、5代目ではコスト増分を8分の1減らす(12.5%減)という原価低減目標が設けられた。

そして小型ハイブリッド乗用車「アクア」の開発では、サプライヤ(具体的にはデンソーの開発エンジニア)を含めた大部屋による開発体制を構築した。大部屋にはトヨタ側では設計、生産技術、製造、材料技術、メカトロニクスのエンジニアが集まり、サプライヤのエンジニアと同じ拠点で開発を進めた。総勢で約300名という大所帯である。この結果、発電機とモーターを新規開発したにも関わらず、短期間に高品質の完成車を開発できたという。特にモーターの開発では、開発途上で重要な問題が発覚して設計変更を余儀なくされたにも関わらず、実質的な開発期間をさらに縮めることで対応した。

嵯峨氏はハイブリッドシステムの開発リーダーを10年間経験して学んだこととして、リーダーに要求される大事なこととは、「部下になめられない総合的技術力」と「多くの組織やメンバを惹きつけて動かす人間的パワー」であると心の底から感じている、とコメントし、講演をまとめた。