いささか旧聞に属する話だが、2013年7月にARMの日本法人であるアームは社長が西嶋貴史氏から内海弦氏にバトンタッチした。これに先立ち、英ARM Holdingsも3月にそれまでCEOを勤めていたWarren East氏が退任し、Simon Segars氏がCEOに就任している。
さて、その7月に就任された内海氏であるが、公式な場でのお披露目は同年12月に開催されたARM Technology Symposia 2013となった。ただこれに先立ち11月に、内海社長にお話を聞く時間を取っていただく事が出来た。当時は就任後4カ月といったところで、これから自身の舵取りを始めてゆこうという時期にあたる。その時期の内海氏の抱負などを、幅広く語っていただいた。
Q:では月並みな質問から始めさせていただきます。内海さんはこれまでSales RepresentativeというかSalesのSenior Managerだったわけですが、今回社長になられました。で、実はやっていることはあまり変わらない、というお話もある一方、全然違うというお話もあります。このあたりはいかがでしょう?
A:仰るとおりです。半分は変わらないで、半分が新しい事です。特に先代含めて、私どもが駄目だったところは、まずマイコンがあります。マイコンをそれほど本気でやってなかったのは確かです。マイコンはIoTに向けて、絶対に外せないものですが、今になって(本国の)CEOが変わって、IoTと言いはじめました。
日本はマイコンが強い、マイコン天国ですから、ここにもうすこしですね、受け入れられるような形で入ってゆくというところが、私どもがまず一番にやるべき事だと考えています。
Q:そうは仰いますが、東芝しかり、富士通というか今はSpansionしかり、ルネサスですらCortexを使われ始めておられます。それでもまだ足りない、と?
A:それがちゃんと入って、日本の組み込み業界に受け入れられれば、OKです。
Q:まだそこまでは行ってない?
A:行ってないですね。そこで何が足りない? となった時に「教育やりましたか? やってませんよね」と。ARMは、全然ないがしろ、といったら悪いんですが、本気でやっていませんでしたね。ルネサスは御自分の経費で、教育のために評価用ボードや開発環境をちゃんと出してらっしゃいます。あれに近い形のことをやらないといけないんです。
Q:ただARMとしてもmbedみたいな形でずっとやられてきて、最近の話をすれば、CypressのPSoC 4とかはCortex-Mベースですが、あれが20ドル台で提供されている。ですので、以前に比べるとずっと受け入れやすくなったのかな、とは思うのですが。
A:敷居は下がりましたね。ですからもっと、例えば大学向けに提供する、といったことを考えていきたいところなのです。
Q:あるいはmbedもずっと値段が下がって、以前よりは受け入れられる素地は出来たのかな、と。
A:その通りです。ただ、もう少し教育も含めて。「ツールがあります、はい」では済まないんですよね。従来の日立のマイコン事業部が何をやってきたかというと、販社も含めてもっとちゃんと取り組んでらっしゃったと思うんです。そして、(その教育を受けた学生が)社会人になられて、そのまま(日立の)マイコンを使われる、と。そういった、文化的土壌も含めた取り組みがこれからの課題ですね。
Q:それは例えばDS-5を日本語化した上で無償で配られるとか(笑)
A:大学向けにですか(笑)。必要があれば、もっと極端にRTLを。学校は教材が欲しいわけですよね。そして、今は何が使われていますか? というと他社のものが使われているわけですが、そういったところに向けたものも考えています。
Q:確か本国の方ではCortex-M0のRTLを教育機関向けに提供するといった取り組みはなされていたかと思うのですが。そういうことを日本でもやられると。
A:そうです。それを今から日本バージョンとして考えていきたい。あともう1つは、AAE(ARM Accredited Engineer:ARM認定エンジニア)の技術者認定試験を立ち上げようとしていまして(Photo01)、中国と台湾では比較的受け入れられているんです。当然Microsoftも同じような事をやられてますから、我々もやった方がいいだろう、と。試験インフラはすでに日本でも50サイトほどあります(Photo02)。Prometricという、これはもうまったく普通の試験ベンダでして、料理の認定試験とか、まったく情報とは関係無いところもやられています。その試験インフラを使うように出来上がっているんです。
ただ、認知度が低いのが難点です。受かったからといって、「だから何」というところをちゃんと、マイコン技術者の認定試験の様になればいいかな、と。