海外でも知られている"日本の映画監督"といえば?

黒澤明の時代劇がイタリアやアメリカの西部劇に影響を与えていることは、洋画が好きな人なら知っていることではないでしょうか。また、最近であればフランスを始めとするヨーロッパで評価の高い北野武など、日本を飛び越えて名前を知られている監督もいます。 そこで、今回は日本在住の外国人20名に「海外でも知られている"日本の映画監督"といえば?」と質問してみました。

■黒澤明(シリア/30代前半/男性)

■黒澤明さんです。(インドネシア/30代後半/男性)
■黒澤明(中国/30代前半/女性)
■黒澤明(ブラジル/50代前半/女性)
■黒澤明(アメリカ/30代後半/男性)
■黒澤明(イギリス/40代後半/男性)
■黒澤明(韓国/40代後半/男性)
■黒澤明(ドイツ/30代後半/男性)
■黒澤明(スペイン/30代後半/男性)
■黒澤明(ロシア/20代後半/女性)
■黒澤明(ペルー/40代後半/男性)

日本の誇るべき映画監督・黒澤明。1950年に大映で撮影した「羅生門」がアカデミー賞とヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞。その後も、人間模様を描いた「生きる」や時代劇「七人の侍」、「隠し砦の三悪人」などを発表し、カンヌやベルリンの映画祭の常連となりました。また、ジョージ・ルーカスやクリント・イーストウッドなど世界の名だたる監督や俳優にも影響を与えており、国を問わず名前があがっているのもうなずけます。ちなみに黒澤は若い頃は画家志望で、挫折の末に映画監督を志したのだとか。これほどの人にそんな過去があったなんて、人生はわからないものですね。

■宮﨑駿(トルコ/20代後半/女性)
■宮﨑駿(スリランカ/50代後半/男性)
■宮﨑駿(ポーランド/20代後半/女性)

アニメ関連の回答ではおなじみの監督です。ジブリ映画が海外で評価されるまでは苦難の道のりがあったことは「"日本のアニメーション"で好きな作品は?」の質問でもご紹介しましたが、2002年のベルリン国際映画祭で「千と千尋の神隠し」が金熊賞を受賞したことは大きかったようです。宮崎監督は、映画に取り組む前にも「アルプスの少女ハイジ」や「未来少年コナン」などテレビアニメの名作を多数手掛けています。海外のみなさんにも見ていただきたいものです。

■黒澤明、北野武、宮﨑駿。(オーストラリア/40代前半/男性)
■黒澤明、北野武。(スウェーデン/40代後半/女性)

前述の2人に加え、新たに世界で評価された監督が登場しました。ご存じの方も多いとは思いますが、北野武とは、コメディアンのビートたけしさんのこと。名前はアカデミックな場と芸人としての場で変えるそうです。初監督作品は1989年の「その男、凶暴につき」。「HANA-BI」で第54回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞し、世界的に有名になりました。初期は青を基調とした「キタノブルー」が特徴とされていましたが、昨今の作品ではその特性は薄れぎみ。とはいえ「アウトレイジ」シリーズでの黒塗りの車とロゴカラーの対比など独特な色彩感覚や構成は変わっていません。そして、これほどの世界的な文化人でありながらもコメディアン魂を忘れないのが氏のすごさです。

■北野武、小津安二郎、黒澤明、宮崎駿。(イタリア/30代後半/女性)
■北野武、小津安二郎、溝口健二、黒澤明は昔から尊敬されていて、パリの小さい映画館でもよく上映されます。(フランス/30代後半/男性)

小津安二郎は、戦後に女優・原節子を迎えた「東京物語」などを撮影し、「小津調」という世界を完成させた映画監督です。小道具の配置や赤をポイントにした色も含め計算された画面構成、娘の結婚や親子関係など同じテーマを繰り返して描くなどの独自性があります。華々しい受賞はありませんが、その美意識は海外の監督から支持され、ジャン=リュック・ゴダールやジム・ジャームッシュなどに影響を与えました。

溝口健二も、日本映画の巨匠の一人。女性を主人公に据えた情緒的な作品が多く、また画面にワンシーン・ワンカットの長回しが多いことが特徴です。「雨月物語」ではヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。歴史劇の製作時はセットや小道具、衣装、時代考証などにこだわっており、同「雨月物語」では米アカデミー賞衣装デザイン賞にもノミネートされました。

戦前から今まで、描くモチーフや表現の手法は変われど日本人独特の感覚や感性が世界に影響を与えている事実は変わりません。今もその影響を元にした新しい映画が国内外で生まれ続けていると思うとうれしいですよね。

一方、映画の現場では、矢崎仁司や奥原浩志のように研修で海外に渡り、混成チームで制作をする監督たちもいます。今後はまたそういった現場レベルでの影響が現れてくる可能性もあるでしょう。今回のアンケートは国内外の枠を超え、文化が循環している事実とその面白さを感じさせるものでした。