続いてのポイントは、テンプレートと利用期間である。各社で設計思想が微妙に異なるのは興味深い点である。

まずは、システム管理の課題と必要な機能を整理していこう。

仮想マシンテンプレートと利用期間に関する課題

シンプルな仮想化環境を運用した経験をお持ちの方ならご存知だろうが、仮想マシンの作成工程においては、改善の余地が残されているポイントが大きく2つ存在する。

1つは、仮想マシンテンプレートの機能。もう1つは、仮想マシンの寿命を適正化する機能である。以下、この2点の課題と、対応機能に触れていこう。

テンプレート機能の課題

通常、クラウド環境では、仮想マシンを作成する度にOSをインストールするのではなく、予め用意したテンプレート(OSインストール済みの仮想マシン)をコピーしてクローンを作る。これにより、利用者はサービス提供までの時間を大きく短縮できる。

このクローニング時に利用する仮想マシンテンプレートには大きく2種類ある。

1つは、仮想マシンを利用するために必要なOS・ミドルウェア・アプリケーションなどをすべてインストールしてテンプレート化した「仮想アプライアンス方式」。もう1つは、仮想マシンを起動するために最低限必要なOSのみをテンプレート化した、「JEOS(Just Enough OS)方式」だ。

仮想アプライアンス方式では、全てのアプリケーションがテンプレート内にインストールされているため、仮想マシン作成直後からすぐにアプリケーションを利用できる。しかし、管理者はユーザーが希望するイメージの数だけ仮想マシンイメージを用意する必要がある。もちろん、仮想マシンイメージに対してOS・ミドルウェア・アプリケーションのアップデートも取り込んでいかなければならないため、管理工数は膨大になる。

一方、JEOS方式の場合は、テンプレート化されるのはOS環境のみとなるため、管理者は提供する仮想マシンイメージの数を大きく削減できる。しかし、仮想マシン作成後に、必要なミドルウェア・アプリケーションをユーザーが自身でインストールする必要があるため、利用開始までに手間と時間を要することになる。

図8 : 2種類の仮想マシンテンプレートの提供方式

利用期間の課題

クラウド環境は容易に仮想マシンを作成できる点が大きな特徴ではあるが、その分、不要な仮想マシンが乱立してしまうという弊害も存在する。

ユーザーからのリクエストで仮想マシンを作成した場合、削除にはユーザーの意思を確認する必要がある。しかし、多くの場合、ユーザーは進んで仮想マシンを削除しようとすることがないうえ、管理者も大量にある仮想マシンリストの中からそれぞれを誰がどのような用途で利用しているのかを細かく把握するのは難しい。

結果として、ほとんど利用されていない仮想マシンもそのまま残り、サーバーリソースを消費し続けてしまう。

構成管理ツールの利用と、仮想マシン利用期限の設定

管理者としてはJEOS方式を採用し、管理対象となる仮想マシンイメージを最小限に留めたいが、ユーザーとしては仮想アプライアンス方式によるバラエティに富んだ仮想マシンイメージの提供を望むだろう。両者に間には深い溝があるが、こうしたギャップも「構成管理ツール」と呼ばれるソフトウェアにより埋められる。

構成管理ツールは予め定められた構成情報に基づき、アプリケーション・ミドルウェアのインストール・構成を自動化できる。JEOS方式と構成管理ツールを組み合わせて利用することで、管理者の提供するJEOS方式の仮想マシンイメージと、ユーザーが選択したアプリケーションを組み合わせた仮想マシンを自動作成できるのだ。利用者に選択肢を提供しながら、サービス提供のスピードも向上できる。

不要な仮想マシンが存在し続ける問題に関しては、仮想マシン作成の時点で利用期間を設け、決められた期限が過ぎた仮想マシンを自動的に停止・削除する機能が用意されている。これにより、プロジェクトの期間などに合わせて仮想マシンを運用できるため、効率良くクラウド基盤を使用できる。

以下、これらの機能に関して、VMware、Cisco、Citrixの実装を見ていこう。実現できる内容には大差がないが、ベースとなる考え方や使い勝手が違うのは面白いところだ。