九州大学(九大)は、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料による第3世代の有機発光材料(Hyperfluorescence)の実用化上の技術課題である耐久性に関する検証を実施し、その結果、同OLEDの発光層中のキャリア再結合位置を制御することにより、従来のリン光材料を使ったOLEDに匹敵する耐久性を得られることを実証したと発表した。

同成果は九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の安達千波矢 センター長、九州先端科学技術研究所 有機光デバイス研究室の中野谷一 研究員(最先端有機光エレクトロニクス研究センター客員助教)らによるもの。詳細は、Nature姉妹誌のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

研究グループは2009年度にポルフィリン誘導体(SnF2OEP)を用いて、電流励起下での遅延蛍光現象を確認していたが、その外部EL量子効率(ηext)は~0.1%程度の効率に留まっていた。その後、TADFの原理を量子化学的な視点から考察、新規に分子設計・合成を行い、トリアジン-カルバゾール誘導体を中心とした材料設計から、2011年度にηext~5.3%、2012年夏にηext~11%、そして2012年冬に内部EL量子効率(ηιντ)がほぼ100%の発光効率を示す新しい発光分子(カルバゾリルジシアノベンゼン誘導体:CDCB)を創出していたが、実用化を目指す上で重要な技術課題であるOLED駆動耐久性に関する実証研究は実施されておらず、その検証が求められていた。

そこで今回の研究では、CDCBをOLEDの発光ドーパントとして用い、発光層および電荷輸送層に用いる有機半導体材料との組み合わせによりデバイス構造の最適化を図ったほか、OLEDの発光層中で生じるキャリア再結合位置を制御することで、理論的に予測される外部EL量子効率を維持しつつ、輝度半減時間2800時間を示す高効率・高耐久性OLEDを開発。同デバイスの輝度半減時間は、代表的なリン光発光材料である、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム(III)を用いたリン光OLEDでの輝度半減時間(4000時間)に匹敵する性能であることを確認したという。

この成果は、TADF材料が電気励起下においても電気化学的に安定であることを示すものであり、実用化において十分に耐えられる可能性が示されたと研究グループでは説明しており、これによりレアメタルを含有する有機金属発光材料を使わなくとも、高効率EL発光と高耐久性の両立が可能であることが示されたことから、今後、OLEDの発光材料は、蛍光、リン光に次ぎ、第3世代のTADF材料へシフトしていく道筋が示されたとする。

なお研究グループでは今後、アカデミックな視点から、より詳細な物性解析を進め、有機発光デバイスの学理の確立と創出に挑戦していくとするほか、TADFを発光中心に用いたOLEDの実用化を目指して、材料開発・デバイス開発・プロセス開発を統合し、光の3原色を示す高効率なRGB発光材料のラインアップ、白色OLED、実用レベルの耐久性の実現へと研究開発を進めていく予定としている。

TADF-OLEDの発光特性

TADF-OLEDの輝度減衰特性